最終選別が始まり3日が経とうとしていた。
あれからというもの、善逸にも伊之助にも会ってはいない。相当広い山だと思い知らされる。
2人と関わって分かったが、階級を隠してみると下の子達は気安く話してくれる。
それが何より名前にとって嬉しい事だった。
「え…?は、は、花柱様!?」
最近呼ばれていない「花柱」という言葉。
しまった、まさか私を知っている子がいたなんて。
急に呼ばれたその言葉に焦りを感じ、急いで振り返るとそこに居たのは隠の男性であった。
「…あなたは?」
「し、失礼致しました。隠の後藤と申します」
その男性は後藤と名乗った。
あぁ、いつも積極的に仕事をこなしている彼か。いつもいい意味で目につく彼を、名前は知っていた。
隠の人であれば、彼女を知っていてもおかしくない。
「後藤さんって言うんですね。いつもお仕事ぶり拝見させて頂いてます」
「お、恐れ多いお言葉です…」
「かしこまらないでください。それはそうと…なぜここに隠の方がいらっしゃるんですか?」
「あまりこのような言葉を使いたくないのですが…簡単に言ってしまうと、死体処理でここにいます」
そうか、何度も鬼に食われる声を聞いても死体がないのは隠の人達が処理をしているからだったのか。通常であればそこら中に、無残な死体があってもおかしくない。
本当に隠の人たちには頭が上がらないな。
「鬼とか大丈夫なんですか?襲ってきたり…」
「ここにいる鬼たちは、人を食っている鬼の中でも弱い鬼たちです。藤の花の香を鬼避けに持っていれば襲われません」
「なるほど…」
「あの…大変御無礼なのは承知なのですが…どうして…その…花柱様はこちらにいらっしゃるんですか?」
「はは…やっぱり気になります?」
「それは…もう…本来ならば居ないはずの階級の方がいらっしゃる訳ですから…しかも隊服も着ずに」
ここで出会ったのも何かの縁かもしれない。
経緯を説明すると、肩を震わせ「感動しました!!」と後藤は言った。
「さすが、花柱様です!そんなに考えて下さっているなんて。憧れの的なだけあります」
「あらあら私、憧れの的なのですか?」
「えぇ、才色兼備な花柱様を見て憧れない訳がないですから」
「才色兼備なんて言い過ぎです。…まぁでも隠の方の刺激になってればいいのか…な?」
後藤は名前に笑顔で話し続けていた。
普通であれば飽きる話も、人と話す機会も があまりないこの場所では、後藤の話はとても新鮮で面白かった。
彼女も後藤からいい刺激を貰ったと満足している。
「そろそろ俺は行きます」
「分かりました。気をつけてください」
「花柱様がいれば安心です」
「…後藤さん。安心、それが人間の最も近くにいる敵ですよ」
「…っ!!!き、肝に銘じておきます!!」
「それでは」と彼は姿を消した。
少しは隠の人と仲良く慣れただろうか。
ここに来てまだ3日目だが、いつもとは違う出会いがたくさんある。
名前にとっても、この最終選別は身になっていると思う。
「帰ったら天元さん達に色々話そう」
きっと笑顔で話を聞いてくれるだろう。
なんせ、前代未聞の“派手”な忍びをしているのだから。
帰るのが楽しみだ。
その温もりを御大切に
(なんて花柱様は素敵な方なんだ)