(直視点)



今日は生徒会もなくそのまま寮に戻る。鞄を床に置いてベッドに寝転べばギシリとベッドのスプリングが鳴った。そしてふと先ほど澄さんに言われた言葉を思い出す。


(赤い髪で関西弁な奴に会ったら目も合わせないで。自分が勇馬と付き合っている事も言っちゃ駄目)
(なんで…)
(お願い、直のためなんだ。もし会ったら僕か勇馬のところに逃げて)
(え?へ?)
(絶対アイツと関わっちゃ駄目だからね)


念を何度も押されてワケが分からず頷く。澄さんがアイツと呼ぶからには澄さんの知り合いということか。じゃあなんで俺が関係するんだろう。高橋と交際してるとか、なんで。そういや最近高橋と会ってない気が、する……とか思ってみたり。いや待て待て、何そんな女々しい事を考えてるんだ。いやでも最近、キ、キスとかしてないような気が。

(直先輩)

伏せ目がちに近くなる高橋の顔と感触。唇を離した後に軽く触れる程度にもう一度キスをされる。後頭部と腰にまわされる腕に神経が集まって高橋の唇は瞼、頬、首筋に吸い付いて――


――ピンポーン


「っ!!」

閉じていた瞼を開いて天井の蛍光灯を見つめる。乱れた自分の息づかいに羞恥心が沸き上がる。

(俺、今何考えて…っ)

ノロノロとした動きでベッドから下り、突然の来訪者にドアを開ける。


「あれ、出んの遅かったからおらんのかと思ったわ」


自分より背が高い男。馴染まない関西弁。赤い髪の毛。ニヤニヤと意地が悪そうな笑み。

(――赤い髪で関西弁な奴に会ったら目も合わせないで)

澄さんがいつになく真剣な表情で言った条件にピッタリと当てはまる人物。

「え、あの…」
「なぁなぁいきなり言うのはあれやけど、この部屋譲ってくれへん?」

にっこり笑う男に顔をしかめる。あれだと思うなら言うな。ていうかコイツは確か季節外れの転校生だったはず。

「嫌だ」
「なんで?」
「ここは俺の部屋だからだ」
「ほんならここよりいい部屋用意したるから」

そんな問題じゃない。ここよりいい部屋なんてものあるわけがない。高橋の隣はここしかないから、俺はここがいい。

「なんやねん。何が気に入らへんねん」
「お前こそここじゃないと駄目な理由はあるのか」
「あるわ。お前こそあんのかよ」
「あるに決まってる」
「じゃあなんやねん」
「それは…っ」

言いかけてぐっと口を閉じる。言ってはいけないと澄さんは言った、だから我慢しろ。

「ほらな、ないんやから言われへんのやろ?」
「お前に言いたくないからだ…。ならお前はどうなんだよ」
「んなもん俺は勇――」


「あれ?一葉…と、直先輩!?」


廊下先に見えるのはビックリしたように目を丸くする高橋の姿があった。しかもなぜか顔も青い?




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