細めの体つきから伝わる会計ちゃんの早い心音にほっとし、キスをしようと頬に手を添える。


「……っ待て」
「ん?」
「なんか聞こえる」
「へ?」


潤んだ目はいつの間にかキリッとした瞳に変わっていて俺からのキスを拒んだ。静かにしろ と人差し指を唇にあてる仕草が可愛かったから許す。

―――…コツ ――…コツ


「足音?」
「みたいですね」


デジャヴ、なんかこれデジャヴだ。近付いている足音はピタリと止まる。それはここの部屋の前で。

ガチャ ガチャ
ガチャガチャ ガチャガチャガチャ ガチャガチャガチャガチャガチャ


「「……っ!?!?」」


ドアノブが回されるが鍵をしていたためか何度も何度も音がなる。あまりにもおかしな事に驚きながらもふと気付く。


「直、先輩?」
「…………」
「なんでそんな顔…」
「あの、さ。確か俺達が寮に帰ってきたの7時だった、よな?」
「はい、それが?」
「あの時、教室に隠れたあの時の足音は、誰、だ?あああ、あと、下駄箱。帰るときは開いてたのに、なんで、あの」
「…………っ!」


ガチャガチャ ガチャ ガチャ ガチャガチャガチャ

言葉に出来ない恐怖が体を包み、結局俺達は震えながら携帯で助けを求めた。





「んなことがあって、だから寝不足」
「ふーん」
「だから一緒にトイレに着いてきてください」


人間頼めばなんとかなるものだ。あれから一晩たつが怖い。めんどくさいとぼやきながらも着いてきてくれる瀬波に感謝して俺はトイレに向かう。だから知らなかった、瀬波に話しかける男の存在に。


「なぁなぁ」


軽い口調でフードを深く被った男が瀬波に話しかける。見慣れない男に眉を潜めながらも瀬波は何のようだと返す。


「職員室ってどこか知らん?」
「職員室からこの廊下をまっすぐ行ったとこだよ」
「マジで。うわ全然ちゃうかったわ。ありがとうな」
「いや別にこれくらい」


手を降りながら瀬波の前を通り過ぎる男の顔を見てぞくり と瀬波は背筋が凍る。

(なんて嫌な笑い方をする男なんだ…)

何も知らずトイレから出てきた高橋はまだ何も知らない。





男は職員室への用事を終えて屋上にいた。フードが風でとれてシンプルなピアスが現れる。赤髪に黒が混じり、短い髪の毛もまた特徴的だ。男はニタニタと笑いながら携帯を取り出して目的の相手に電話をかける。


「あ、もしもし」
『一葉?』
「ビンゴやった。やっぱ俺ここの学校にするわ」
『……そう、分かったわ』
「じゃあまた暇があったらかけるわ」
『はいはい』


携帯を閉じて男は笑う。


「やぁっと見つけたで、勇馬くーん」




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