「先輩大丈夫ですか?」
「ん、ぅ…」
「そんなやらしぃ声出さないで下さいよ。しかも涙目」
「うっ、うるさ…い、だって」
「怖いから?」
「う、ん…」
「あぁもう可愛い」


ぎゅーってまた思わず抱き締めてしまう。いや俺は悪くない。だってあれだぜ、暗闇で涙目な恋人が怖いからと健気に服の裾を小さく握ってる。何この嬉しいシチュエーション。しかもたまに鳴る雷にもビビってベタに抱き着いてきたり。俺は思う、ベタな展開もありだ。


「もうすぐ下駄箱ですよ」
「あ、もう?」
「はい」
「そっか…」
「……」
「な、にニヤニヤして…」
「いやぁ俺との二人きりが寂しくて少しテンション落ちてるのかなぁって」
「はぁ?そんなわけ…っ!」
「まぁ嫌でもこの後俺の部屋でイイことしましょうね?」


さっきの続き、と耳元で囁けば服を掴む会計ちゃんの手に力がこもった。微かだが頷ずいた様子も確認し懐中電灯を持っていない俺の左手を会計ちゃんのと絡める。下駄箱へ向かい、さっさと寮へ帰ろうと重たいガラスのドアを押すがびくともしない。


「あれ?」
「どうした?」
「開きません…」


引いても押してもだめ。わずかに開く扉の隙間に見える鉄。あぁもしかして。


「警備員が先に来ちゃったみたいですね」
「え…っ!」
「2号館ならまだ開いてるかもしれません」
「…2号館って二階にあがらないと行けなかった、よな」
「…………一回戻りましょうか」


最悪だと項垂れる会計ちゃんに苦笑を浮かべるしかない。うちの学校は1号館と2号館が二階の渡り廊下で繋がっている。一階からもいけるが下駄箱が閉められているなら一階からの扉も閉じられているはず。しかも下駄箱から渡り廊下までの道のりは無駄に長いのだ。


「はぁ…」
「まぁまぁとりあえず行きましょ、う、か?」
「なんで疑問系」
「いやなんか足音が…」

―――…ツ ―…ツ

何か微かだが硬いものが床を叩くような。

――…コツ ―…コツ


「たたた…、たか、たかは」
「警備員ですね。見つかると面倒なので二階に上がりましょう」


強引だが会計ちゃんの腕を掴んで二階まで掛け上がる。しかし足音は遠ざかるばかりか近付いている気がする。必死に近くにあった教室へ入り込みドアを閉める。はぁはぁ と少し乱れた息を整えて足音が遠ざかるのを待った。

――…ツ ―…コツ コツ

「と、とま、止まった」
「静かに」

―…コツ ――…ツ

段々と遠ざかっていく足音に二人して脱力する。が。

ガラッ

「ひ…っ!」
「っ!」
「あれ?二人とも何してんの?」

いきなり開いたドアに思わずビックリしたがいたのは澄と。

「会長…っ!」

会長さんなのだが、待て待て。会計ちゃん、なぜ会長に抱き着くんだよ。あれ、俺は?俺の立場は?


「直、大丈夫か?」
「う、あ、はい…」
「怖いの苦手なのになんで」
「いっ色々ありまして」
「震えてる、落ち着くまでじっとしておこうか」
「す、みません…」


何故か甘い空気が一気に溢れでしてる気がする。泣きそうな俺の肩に優しく触れながらキラキラした笑顔で澄は言った。


「勇馬、ドンマイ」


やめろ余計虚しくなる。

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