「付き合ってるはずなのに会計は二人きりになるのを避けるって事?」
「……あぁ」
「なんでお前らここにいるんだ。んで高橋は泣くな鬱陶しい」


居場所を変えて今は寮長の部屋にて高橋勇馬の人生相談中。そしてやっぱり伊東さんはひどい。いやまったく。可愛い寮生徒が泣いてるんだぞ、と頬を膨らませるがキモいの一言。


「伊東さん今度の寮行事のあれ、勇馬と会計にしようよ」
「あー、そういや決めてなかったな」
「あれ?」
「どうせ誰もやらないんだしいいじゃん」
「確かにな」


ちーん と鼻をかみながら二人の様子を伺ってみるがいい予感が一切しない。


「とりあえず寮行事の王道メイン、肝試しのお化け役は勇馬らにけってーい!」


わーっと喜んでいるが状況判断が追いつかない俺は意味が分からないまま頭にはてなマークを浮かべるしかなかった。


結局伊東さんに追い出されて自室に戻るため三階まで上がれば俺の部屋の前に誰かいた。いやあれは。


「会計、ちゃん…!」
「っ!あ、たかは…」


見慣れない私服姿の会計ちゃんで一気にテンションがあがり近くまで駆け寄る。その時一歩下がられたが気付かないふり。気付いたら負けだと思う。


「どうしたんですか?」
「え、あ、あの」


久々に会計ちゃんがしどろもどろしている姿にニヤニヤと口元が緩む。ぎゅう、と抱き締めれば体がカチンコチンに固まった。


「あの、な、高橋」
「はい」
「俺達って付き合ってる、のか?」
「…………………へ?」


ちょっと待て、何を言い出すんだ。あれ、これって俺だけが舞い上がってましたパターンB?やべ、何それ泣きそう。


「え、俺達って付き合ってないんですか?」
「あ、そっ、そっか」
「う、あ、はい」
「…………」
「…………」


きっ、気まずい。なんで、確かあの時会計ちゃんは俺が好きって言って、俺はそれで付き合ってほしいと言ったから付き合ってるのかと。


「あ―…」
「……あのさっ」
「え、はいっ」


いきなり大声で言われて思わず大声で返してしまった。ギュッと拳を握った会計ちゃんはキッと睨みあげる。


「俺の、あの、なまえって」
「名前?」
「知ってるか?」


名前って普通に名前でいいのだろうか。


「如月、直…先輩?」
「あ、うん、ならいいんだ…」


こっちがよくない。一体何かと片眉を上げれば真っ赤な顔で反らされた。


「如月直?」
「…っ!」
「……あぁ、なるほど」


つまりはこういう事か。


「なお?」
「ばっ、何、」
「名前で呼んでほしいならいくらでも呼びますよ直先輩」
「わっ分かったから」


満足したのか抱き締めていた会計ちゃんの体から力が抜けて、するりと背中に手をまわされる。


「でもなんで名前を?」
「だって、付き合ってんなら名前を呼び合うんじゃないのか?」


真面目な顔していう会計ちゃんに思わず顔が硬直する。え、なんの恋愛説明書を読んだんですか?あ―…、もう、可愛い。

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