ファンタジーとは現実ではありえない、いわば夢のような出来事だと俺は思う。魔法使いしかり、妖精しかり。

猫耳が生えるのもファンタジーだと思うんだよな、うん。


「で?」
「ホレ薬を作ろうとしたら間違って猫の細胞をいれちまってな、つまりはそういう事だ」
「いや、意味分かんないですし」
「分かれ」
「んな無茶な」


この人は何を作ろうとしたんだと伊東さんを睨む。薬を自前に作るとかもう寮管理人じゃなくね?と感じるが言えないから言わない。そんな伊東さんの頭には黒の猫耳が生えていて凛々しく立っている。


「じゃあなんで伊東さんにも猫耳が生えてるんですか?」
「ペットボトルに薬を入れていたんだが、だれかが水と間違えて薬でお茶を沸かしたんだろ。台所にペットボトル落ちてたし。まぁ薬で出来たお茶は寮生徒に周り、知らなかった俺にも効いたって事だ。さっきやかんのお茶飲んだだろ?」


すべての元凶はこのであった。つかなんでペットボトルだよ。


「時間制だから次の日には消えてるから大丈夫だ」
「そーいう問題ですか…」


今の俺の頭にもダークブラウンの耳がある。今から学校なんだがどうしてくれる。項垂れていれば滅多にここへは来ないはずの中ちゃんが玄関から入ってきた。玄関の近くにある寮管理室から見える中ちゃんにもなぜか猫耳が。


「高橋、全員に連絡しとけ。今日は休校になった」
「なんで」
「この耳、学校中に広まってんだよ。解決策が分かんねぇからとりあえず待機な」
「はーい」
「じゃ、じゃあ」
「クロ」


逃げるように背を向けた中ちゃんを呼び止める声。当の本人はビクッと体を固くさせて怯えたように伊東さんを睨み付ける。なんだ、この二人は知り合いなのか?


「高橋、消えろ」
「消えろて…。はいはい、邪魔はしませんから勝手にしてください」
「ちょっ、高橋!担任を助けずに行くのか!?」
「中ちゃんごめん、会計ちゃんが見当たらないのが気になって」


つまりは欲に忠実に従って会計ちゃんを優先します。
軽く手を降ってその場を離れる。さっきから伊東さんの視線がこあい。


ところで会計ちゃんだ。朝はちゃんと会えるのに会えなかったし。部屋にいるのか、と三階まで上がる。一応ノックをしてみるが返事がない。


「あ、ちょっとお邪魔します…」


一言言った、だから大丈夫だ。別に会計ちゃんの部屋が気になるとかそんな不純な動機なんて……ある。から入ります。


「………」
「……」


ちょっ、あ、れ。あの、なんて言ったらいいのか、あれだ、……可愛い。ファンタジーだ、猫耳だ、妖精だ。可愛い、くそう。


「あ―…、こんな無防備に寝ちゃって」
「……」
「襲いますよー?」


布団で制服のまま規則正しい寝息を立ててる会計ちゃんの綺麗な金髪から覗く猫耳は時折ピクピクと跳ねる。傍に寄り髪を触ればまた跳ねた。まるで心臓に矢が突き立てられたようにむずむずする。効果音はキュンだ。


「猫は寝るのがお仕事っていうからか?」


なんか可愛いし、学校休みだし、このまま寝ちゃってもいいんじゃないかと会計ちゃんの隣へ潜り込む。俺より少し小さい体を包み込んで静かに瞼を下ろした。




<オマケ的な>

「……ん」
「……」
「なんか、体に―……!?!?」
「………」
「ななな、なんで、こんな…」
「おはようございます」
「っ!!」



<フラグは立てるだけ立てる>

「クロ、」
「名前で呼ぶな…!」
「逃げるな」
「なんなんだよ、お前…」
「昔の俺は馬鹿だったんだよ、悪かった」
「……」
「だから付き合いなおしてくれ」
「……嫌だ」
「……」
「……」
「……」
「…ぁ、ばかやろっ…!どこ触って…っ」



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