会計ちゃんは息をきらしてこちらを見てくるが状況を理解したのかポカーンと目を見開いて一言。


「高橋って喧嘩強いんだな…。カズ兄がやられてるの初めて見た」
「え、」


喧嘩は強くないんです、すみません。殴ったりはあまりしたくないです、痛いから。


「直、逃げろ!こいつはお前を狙ってんだよ」
「高橋が俺なんか狙うわけないだろ」


いや、まぁ狙ってます。お兄さん当たってます。


「会長から高橋の罰則は取り消しにしてもらった」
「直、」
「高橋行くぞ」
「え?」


そう言われてお兄さんを解放してやれば、会計ちゃんに腕を掴まれて裏庭を出る。これは、助かったといっていいのか。チラリと会計ちゃんを見れば少し顔が赤い。それを見て悪戯を考えた表情で掴まれていた腕をはらい、ビックリする会計ちゃんの手をギュッと握ってみた。


「たか、」
「ありがとうございます」
「…!」


少し嬉しそうにはにかむ表情になぜかムラッとしてしまった。


――――…


「くそっ…!」
「おー、喧嘩好きの風紀委員長様が荒れてんなぁ」


窓から体を乗り出し、馬鹿にした口調で声をかけられた。みれば弟の寮管理人じゃないかとため息をはく。


「…あぁ、伊東さんですか。何しに来たんです?」
「子犬と高橋」


ニヤニヤと笑いながら窓枠を越えて近付いてくる。舌打ちをしても鼻で笑われた。


「……」
「ブラコンも大概にしとけよ」
「……なんですか、中島先生にまた逃げられたんで」


機嫌が悪かったところに油が注がれたせいか思わず言ってしまった、禁句を。

タンッ と真横の壁に煙草を押し付けられた。右頬に近いアスファルトがじゅう、と焼ける。背中に嫌な汗が流れた。


「下手したら火傷じゃすみませんよ…」
「お前が下手な事を言わなければいいだけの話だ。な?」


そう笑う表情にゴクリと唾を飲む。地雷を踏んでしまったと小さく後悔する。


「まぁ今はまだ機嫌がいいから許してやる」
「……」
「ちょっと、手を貸してやる」
「なんです?」
「要はてっとり早くアイツ等が付き合っちまえばいいだけの話だ」
「な…!」


左胸ポケット、うさんくさい瓶に入った液体は無色透明。何だと言うように見れば「媚薬」と軽く言う。


「媚薬!?」
「ヤッちまえばいいんだよ」
「な、何言って…!そんなもの風紀として許すわけ……」
「残念、

もう高橋に飲ませちまった」


目を細めて笑う表情に、やっぱ機嫌が悪いんじゃないかと毒づいた。心の中で。

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