「中ちゃんがゆーまの事呼んでたよ。数学準備室に来いって」
「あー?」
「1限目からずっと寝てたの?」
「まぁな」


肩に触れられた感触で目が覚めた。腕の間から見えた顔は瀬波でくりくりとした目がこっちを見ている。固まった筋肉を解すように体を伸ばして椅子から立ち上がり、時計をみればもうお昼だ。中ちゃん先生から呼び出しかとため息をつく。


「瀬波は先ご飯喰ってろ」
「はーい」


学校には慣れてきてクラスでの友達も増えた。でもまぁつるんでるのは瀬波だけだけど。


「失礼しまーす」
「おぅ、来たか」


言われた通り数学準備室にノックなしで入れば中ちゃんが背中越しに返事を返した。


「俺なんか悪いことしました?」
「寝過ぎだ、馬鹿野郎」


クルリと椅子を回転させて見えた顔は苦笑そのものだった。ほら と渡されたものは数枚の数学のプリント。あ、もしや。


「明日までにやってこい」
「数学苦手なんですけど」
「俺は授業でキチーンと説明したとこだぞ」


にこやかな笑顔の裏に「寝てたお前が悪いんだろ」と意味がひしひしと伝わる。


「受け取らせていただきます」
「よろしい」


泣く泣くプリントを受け取り数学準備室を出る。プリントを眺めるが分からない数字が羅列している。なんだこれ、これはなんなんだ。


「で、明日までにって事ね」
「そー」
「教えてあげたいんだけど約束があって無理だ」
「マジでか」


頼みの綱の瀬波は多分男を漁りにいくんだろう。くそう、俺だって可愛い子食べたい。入学から一度も行為を及んだことはない。欲求が不満すぎて下半身死にそう。アレから会計ちゃんに会えば真っ赤になって逃げるし。


「図書室にでも行くか」


焼きそばパンをかじりながらそう呟いた。


この学校は施設が異常に綺麗だ。廊下だって教室だってピッカピカにされている。そしてここ、図書室も大量の本が二階建てで建っていた。


「あー、くそ、分かんねぇ」


環境を変えたからと言って問題が分かるわけがない。当たり前だ。分からん分からん言い続けてもう一時間。帰りてぇ。


「そこ、xに2を代入じゃなくて5をyに代入」
「へ?」


図書室の出窓部分、俺が来たときからそこで寝ていた男がこちらを見ていた。銀髪で短く切られた髪から覗く瞳は眠そうで口調も少しおっとりしている。


「へ?」
「問2の問題」
「あっ、あぁ」


指示されるままに問題を解いていけばいつの間にかプリントが文字で埋め尽くされていた。すげぇ。


「助かった、さんきゅ」
「ん、大丈夫だ」
「名前教えてくんね?」
「あ―…、俺、」

「会長、またここでお昼寝ですか!?」


銀髪の彼が何かを言いかけた時、思いっきり図書室のドアが開く。それに続いてよく響く声。って、この声。


「いい加減にしてくだ―…」
「あり?」
「見つかった」


息を乱した会計ちゃんがドアの前で仁王立ちしていた。

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