「遅い」
「ええええ―…、なんで…」


 神様神様、なんの意地悪ですか。なんで俺の新しい部屋の前に悪魔がいんの。しかも踏みつけてる段ボールって俺のコレクションが入ってるやつだし。やめたげて、段ボール泣いてるから。


「なんで澄がいんの」
「なんでって、転校生の荷物を出すの手伝ってあげてって、会長命令」
「会長ねぇ。てか一人?」
「いや、君の隣人も手伝ってくれるらしいよ。ね?」


カチャリと隣の304号室から出てきたのは可愛い可愛い会計だった。相変わらずブレザーを脱いでいてシャツは第二まで開けちゃって、そんでもって黒ネクタイなんかしちゃって。


「…なんだよ」
「いえいえ、なにも。ただ隣ってマジですか?」
「……」
「わぁお」


隣の子犬とは会計のことらしくムスッと口を尖らしている。なんだキスを待っているのか。


「とりあえずその思考止めてくれない?気持ち悪いから」


続いて開けてよと言われたのでちゃんと従う。開けば意外と広くて一人部屋にしては十分に過ごせそうだ。廊下に積み上げてあった二、三個の段ボールを中に入れる。


「さっさと終わらすぞ」
「あ、僕今から会議にでなきゃいけないからあとは二人で頑張って」
「「え?」」
「じゃあね」


まさに空気の如く部屋を去っていった澄を見たあと会計を見れば目が合った。


「えーと、」
「……早く終わらせるぞ!」


いやいやそんな顔真っ赤にされてもこっちが困る。いいのか?おっけーなのか?


「これ、あっ開けていいか?」
「え?どれ――、って、待った!それはちょっと待ってくださ」


会計ちゃんは焦っているのか俺の返信を待たないまましゃがみこみ、近くにある段ボールの蓋をバリバリと剥がしてしまった。まずいまずい、これはちょっと。


「見ない方がいい…」
「あ……」
「ね?」


段々と顔が赤くなり、蓋を思いっきりしめる。俯き加減だから顔は見えないがおそらく泣きそうになってるだろう。可愛い。


「会計さん?」
「っ!」


肩に触れてやればビックリしたのか膝から力が抜けて尻餅をついてしまった。視線が重なるようにしゃがみこめば案の定顔を真っ赤にして顔を反らされる。


「大丈夫ですか?」
「う、うるさ、い!」
「落ち着いて下さい」
「落ち着いている!」
「ん―…」


焦っているのがよく分かる。顔真っ赤だし涙目だし語尾が強くなってるし。とりあえず話を変えよう。


「あの、気になってたんですが、なんで生徒会なのに寮が一般なんですか?」
「え?あぁ、それか…」
「生徒会とかは寮が違うって聞いたんですが」
「まぁ間違ってないが、そういう特別対応的な事が嫌いなんだよ。だから理事長に言って一般寮にしてもらった」


ふーんと呟いてみるが会計ちゃんの視線は段ボールに集中している。


「そんなに見ないで下さいよ」
「っ、じゃあそれ捨てろ!」
「俺のコレクションなんですが」
「そんなひっ、卑猥なモノ捨てろ!」
「まぁ卑猥ですけど」


大人の玩具といわれる代物がつまっている段ボールを手にとる。


「捨てろ」
「嫌ですよ」
「捨てろ」
「えー、じゃあ捨てたらキスしていいですか?」
「……は?」


ぽかん と口を半開きに目を丸くした会計ちゃんに俺は容赦なくかぶりついた。

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