突然ですが、海にいます。
目の前に広がる青い景色。海が太陽の光に反射してキラキラと光る。

わぁーい、りぞーとだー。


「俺と海に来れたからってそんなにはしゃぐな」
「はしゃいでねぇし。棒読みだったの分かんねぇのかよ」
「いいじゃん海里」
「つかなんで洋もいるんだよ」
「俺が呼んだ」
「先輩が?」


親友の洋は、はしゃいだように俺の肩をポンポンと叩く。先輩が他の人を誘うなんて珍しい。もしかすると俺に気を使ってくれたのか。最近先輩ばっかで洋と遊べなかった俺に。なんか気恥ずかしくなって先輩から目を背けると見覚えがある人と目が合った。
えっと、確か先輩の執事さんで―…


「神崎、さん?」


以前先輩の家に行った時案内をしてくれた人だ。左目に泣きぼくろあり、切れ目だが少し優しくも見えるその表情。神崎さんはこちらを向いて頭を下げた。


「お久しぶりです」
「あ、やっぱり神崎さんであってたんですね」


よかったと安堵の息を漏らせばニッコリと笑う神崎さん。しかしこの人、燕尾服で暑くないのだろうか。


「じゃあ神崎後は任せたぞ。俺はコイツを連れていくから」
「なっ…!洋はどうすんだよ!」
「あ、俺は大丈夫だからイチャイチャしてこい」
「行ってらっしゃいませ」


先ほど「着とけ」と無理矢理着せられた先輩のパーカーの帽子部分を引っ張られて何故か2対2に分かれた。つかイチャイチャってなんだよ。お、俺は別にそんなん期待してねぇから。



「海里も嫉妬深い彼氏を持って大変だな」
「そうですね」
「神崎さんだっけ?泳いだりしねぇの?」
「私は執事ですから。洋様は存分に泳ぎに行ってはいかがですか?」
「ん―…、じゃあ俺もいいや」
「何故?」
「つまんないし、神崎さんといた方が面白いかなって」
「っ!…なら、早めのデザートはいかがですか?」
「デザート?やった!俺甘いもん大好きなんだよ」


またここでも、何かが変わりそうな出来事があった。


あれよあれよ と連れていかれたのは一般的な海の家と言われる店。簡易なメニュー表を見て先輩は勝手に注文した。


「ほら」


帽子部分を離されて変わりに差し出されたのは……アイス?


「え…」
「食え」
「え、あ、うん」


差し出された物は頂く。先輩は受け取った俺をジッと見詰めてくる。え、ちょっ、食べにくい。


「美味いか?」


まだ食べてませんから。
とりあえず二段になってる上部分のアイスを食べれば口の中で弾ける感じ。だけどそれが口に合って止められない美味しさ。


「美味いか?」
「あ、あぁ…美味しい」
「ふーん」


ふーん て、なんじゃそら。先輩は俺の返事を聞いた後手を引いて近くにある椅子に腰かけた。隣に座れと無言の圧力に従う。


「先輩はいらねぇの?」
「いらない」
「美味しいのに、もったいねぇ」


まぁいらないと言うなら仕方がないかとそれ以上言わなかったが、先輩は此方を見てニヤリと笑う。それに俺は気が付かなかった。


「いただきます」
「は?」


いつの間にか肩を掴まれて顎を持ち上げられて、そのまま唇がぶつかっちゃって。……て、はあああ!?


「んっ――、んんっ、ん―…!」


どん、と肩を押すが、片手には大好きなアイスがいる。大きな行動は出来ない。そう思ってあまり抵抗しなかったら先輩の舌が入ってきた。ちょっ、俺まだそういうキス苦手なんだよ!


「ん、ふ、ぁ…んん―っ!」


ぷはぁ、と口が離れる。息は乱れて先輩を睨み上げるが無駄に整った顔は楽しそうに笑っているだけだった。


「美味いな」
「なっ…!」


ペロリと自分の唇を舐める先輩にぶわぁ と一気に恥ずかしくなった。もう帰りたい。





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