佐藤君と田中君

生まれた時からよく見る名前だ。問題文で田中。先生に呼ばれて振り向けば違う田中。容姿も普通の田中。もう全体的に田中だ。もはや意味が分からない。佐藤、山本、ありきたりな名前は田中以外にも存在するのになんで違うんだろう。なんで同じクラスの佐藤はあんなにずば抜けているのだろう。


「田中君、数学のノートあるかな?」
「あー、ちょっと待って」


クラス委員長の佐藤は柔らかな笑みを浮かべてこちらに尋ねてきた。髪の毛も黒色で頭はいい。先生に気に入られるタイプとは佐藤を例にするといい。


「……」
「どうしたの?」
「…忘れた」
「え?」
「ノート忘れちまった…」


うちの数学は提出物に厳しく、出さなかったものには追加課題を出されるという、青春高校生にはキツイ罰が与えられる。因みに数学は苦手科目だ。


「わりぃ俺のは飛ばしてくれ」
「そんなときもあるよ」


優しく言ってくれるが後に数学の教師から追加課題と称したプリントを渡された。

時は放課後、誰もいない教室に一人の青年がいた。俺だ。家に課題を持って帰ると必ず忘れてしまうというスキルを持っている俺は学校で終わらす事にした。帰宅部で放課後用事がない俺は教室で黙々と問題を解いていたのだが、最後の問題が分からない。最後、最後は解きたい と変な意志を持ち合わせている俺は未だ解けてない。


「わっかんねぇよ―…」
「田中君?」


救世主とはいる。教室の窓から身を乗り出して声をかけてきた佐藤は神様に見えた。


「で、あとは代入すれば」
「おおぉお!」


空欄だった場所は埋められて課題は終了した。頭がいいやつは大抵人に教えるのも分かりやすい。なんたって俺が数学を解けたのだから。


「佐藤ありがとな!」
「いや、教え方が下手でごめん」
「何言ってんだ、分かったから解けたんだよ」
「それならよかった」


筆記用具を鞄になおしてふと佐藤を見る。


「なんかお礼しなきゃな」
「いいよ、これくらい当然だし」
「いや、俺の気が収まらねぇ」


だからやってほしい事とかあるか? と聞けば困ったように笑う。


「なんでも?」
「あぁ」
「本当に?」
「あぁ!」
「じゃあ―…」


分かりやすく考えたフリをした佐藤の表情が変わる。いつもみたいな柔らかな印象を与える笑みではなくて、なんか違う。いつもの佐藤はいなくて。


「君をもらおうかな?」
「へ?」


ぐん と座っていた席から持ち上げられて後ろの席へ押し付けられる。


「今まで隠しててごめんね」
「さ、佐藤?」
「なんか我慢できねぇから」


ここで食べる。


ここで初めて佐藤が猫を被っていた事を知った。
だけど、教室のドアとか窓とかカーテンとかきっちり閉めてコトを起こしたとこに改めて佐藤は頭がいいと知った。



2011/02/11 23:06
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