終章


(愛すべき人の子は、そうして二度とその姿を見せなかった。その言葉を最後にして、物語は締めくくられる。なんという悲劇だろうか。学園長室は水を打ったような静けさに包まれていた。男子生徒は、そこでようやく自分の身体が震えていることに気付く)


「その監督生≠ヘ、今もまだ生きているのでしょうか」
「彼女が生きているのか死んでいるのか、永遠の命を得てしまったのかどうか。それはもう彼以外知るものはいないでしょうねぇ。ただ一つ確かなのは、彼女にはもう二度と会えないという、その事実のみです」

 開いた窓の外で小鳥が囀る。しんと冷えた空間を温めるような柔らかな響きだった。視線を傾けた学園長の横顔は、後悔の色をしていた。

「実は、彼女の元いた世界へ戻る方法は、彼女がまだ一年の時にはもう分かっていました。ただ、周囲と打ち解け合い学園生活を楽しむ姿を見て……急いで帰ることもないのかと、そう思ってしまったのです。戻れば、二度とこちらには戻って来れない。ならば、それをどうにかする方法はないのかと」

 再び写真立てを見下ろして、薄く唇を噛む。祈りにも懺悔にも似たような声で言葉は続いた。

「それを探っている間に彼もまた、彼女を連れ去る算段をつけていたのでしょう。それに気付くことができなかった。それが、愚かな私が犯した最大の失敗≠ナあり、この悲劇の根源です」

 掛ける言葉が見つからなかった。無意識のうちに握りしめた申請用紙に、くしゃりと皺が刻まれる。少しの時間のあと、マントを翻しながら振り向いた学園長は、「さあさあ」といつもの調子で声を掛けた。

「もう昼休みが終わってしまいますねぇ。私これからお昼寝……いえ学園長として様々な仕事を片付けないといけないのでどうぞお戻りなさい。あー忙しい忙しい」
「っはい。失礼します!」

 小走りに廊下を駆けていく生徒の足音が遠くなるのを見計らって、深く椅子に腰かけた。壊れ物を扱うような手つきで、そっと写真立てを元の場所に戻す。その中で眩しく微笑む彼女に、クロウリーは囁くように語り掛けた。

「人と、人ならざる者は、果たして分かり合えるのでしょうか。ねえ、監督生くん」
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