Shall We Love?



 たとえば携帯を眺めてる時の少し緩んだ表情とか、ふとぼんやりした時の視線の先とか。
 そういう無意識って、実は何よりも雄弁だと思うんだよね。特にモモは愛情表現がオーバーでしょ。いつも僕にしてくれるみたいに。だから、本人も気付いてないような些細な仕草の方が逆に目を引くんだよね。ほら、モモって他人のことには目敏く気づくのに、自分のことになると急にニブくなるとこ、あるでしょ。
 それで、ある日突然モモが『ユキ! どうしよう! オレ、あの子のこと好きになっちゃったみたい』って言ってきた時は──似てる? だろ? 最近精度上がってきてる自信あるんだ。
 とにかく、勘違いが解けてからのモモは、ちゃんとそれを彼女に伝えたみたい。
 これは僕の予想に過ぎないけど、あの子だってずっとモモのこと好きだったんじゃないかな。あの子は誰にでも分け隔てなく優しいけど、モモといる時は特に幸せそうな顔してたから。
 曲がりなりにも僕らはアイドルだし、あの子はマネージャーだから、立場的にもそういうのは隠さなきゃって思ってたのかも知れないけど。でも、大っぴらに一緒にいることはできなくても、好きな人に想いを伝える権利は僕らにだってある。たとえ関係性に特別な名前は付けられないとしても、それでも僕としては、大好きな二人が幸せでいてくれるなら嬉しい。
 え? 妬いてないかって? そりゃあね。まあでも、モモが僕より彼女のことを好きだっていっても、少しだけなら許すよ。少しだけね。
 ああそうだ。それでこの前、僕なりに二人をお膳立てしてみたんだよね。あれは、僕たちの久しぶりのオフの前の日で──。



 ◆ Shall We Love?



 ──続いては最もリクエストの多かったこの曲をお届け。今、高輪ゲートウェイ駅が世界で一番ホットな場所ってこと、リスナーの皆も知ってるよね。ラッピングされた京浜東北線の電車は今月十九日まで! ボクも明日、こっそり乗りに行こうかな。それじゃあRe:valeで、『Re-raise』!

 FMラジオから耳にすっかり馴染んだイントロが流れ出して、後部座席のふたりが「Fo〜!」と歓声を上げた。百さんの歌い出し部分がはじまれば、前のスピーカーからも後ろからも同じ声が聞こえてきくるからなんだか不思議な気持ちだ。バックミラーに映る、ちょうどMVみたいにからだを揺らすふたりを眺めてふと唇がゆるむ。新曲を出してからは歌番組の収録に引っ張りだこで、特にここ二週間はまともな休みも取れなかったはずなのに、こうして元気な姿を見せてくれるふたりに安心していた。

「ねえユキ、聞いた? オレたちの曲、一番リクエスト多かったんだってさ」
「当たり前だろ。僕とモモの曲なんだから」
「うっ。やっぱりダーリンは今日も最高にカッコイイ!」

 ふたりの会話に自然と唇がもちあがる。片側三車線の帰り道。ふだん日付を越えない限りはこうして送迎をすることはそう多くはないけれど、明日はようやくのオフで、ふたりには早くゆっくりして欲しかったから今日は自分から志願させてもらった。

「みて。後ろ、僕たちのラッピングカー走ってる」
「うわっ、ホントだ! オレ初めて出会ったかも。名前、一瞬左車線側見れる? もうすぐ来ると思う」
「わっ。すごいですね。街中がRe:valeでいっぱいです」

 進行方向を分かつその車にひらひらと手を振って、ふたりはまたFMのメロディに合わせて口ずさんだ。君がいれば。君といれば。ぴたりとはまるパズルのようなフレーズに耳を傾ける。シャンパンみたいにきらきらした余韻を携えて曲が終わって、またパーソナリティが話す頃。ふたりは忘れていた疲れが落ちてきたのか、かかる重力が増したようにして座席にもたれた。

「ユキは明日のオフ何するの」
「寝るよ。明日こそは夕方まで寝る。決まってるだろ」
「でたよ〜ユキのもったいない休みの過ごし方。オレも何もないから、ユキと映画でも見ようと思ったのにぃ」
「別にいいけど、壮大な空の画面とか、くるくるテープ回してるおじいさんの画面で寝る自信あるよ」
「それまだ始まってもなくない!? 最初のやつじゃん! ワーナーとかでてくるとこ!」

 ほとほと噛み合わないふたりの会話を微笑ましく聞いていると、「名前は何するの?」と千さんからのキラーパス。「わたしも特に何も予定なくて」と苦笑混じりにこたえると、ふうん、と千さんはどこか含みを持たせたあいづちを打って、

「名前。悪いんだけど、今日は僕から降ろしてくれない?」
「あ、はい! わかりました」
「ありがとう。ごめんね」

 ミラーに向けて、プールの水面をなぞるみたいな涼し気な笑みを落とした。きっと見た目よりもずっと疲れているんだろうな──なんて思いつつ、進行方向を変えるべく右にウインカーをだす。カチカチと点滅音が聞こえるほどしずかになったふたりに、FMラジオの声だけがやさしく語りかけている。


「名前、送ってくれてありがとう。モモもお疲れ。それじゃ、おやすみ」
「本当におつかれさまでした。明日はゆっくりされてくださいね」
「ユキ、バイバイ!」

 陽射しの残滓が星に散ったような夜空の下。千さんの背中が見えなくなるまで車内からふたり手を振る。「それじゃ、次は百さんのお家に──」「名前」後部座席まで振り向いたからだが声に引っ掛けられてぴたりと止まった。先程からやけにしずかになった百さんが、少しくすぐったいような顔をしてこちらを見ている。

「ユキさ、絶対わざとだよね」
「え?」
「今日は先に自分から送ってって言ったの。オレたちのこと、あえて二人にしたんだろうなって思ってさ」

 ほんのりと顔を赤らめて片肘つく百さんに、つられて全身があつくなるのが分かった。頬は、もっと。三十六度の微熱。偶発的な誘導。思い出すのは、いつかの百さんの言葉。わたしのことを好きだといった、彼の。

 オレ、名前のことが好き。別に何かが欲しいとかじゃなくて──いや、そりゃ特別な関係になれたら嬉しいけどさ。でも、そういうのをねだって、名前に大変な思いさせたくないんだ。だから、ただ聞いて欲しかっただけ。

 正直に言えば、それまで百さんはわたしのことがあまり好きじゃないんだろうなと思っていた。だからそう言われた時は気が動転して、うまく言葉を返せなくて。百さんはそんなわたしの姿をどう受けとったのか、くしゃりと笑ってわたしの頭を撫でてから「そういうことだから。これからもよろしく!」と去ってしまった。
 それからの百さんは、本当に何も無かったかのようにわたしに接して、わたしだけが、片方だけ脱げた靴のようにあの日から動けずにいた。
 ずっと言いたかった、言わなきゃいけない言葉を伝えられないまま。

「百さん。……わたし」
「ストップ! ゴメン。なんか変な空気にしちゃって。気にしないでいいから」
「ちがうんです! あの……ご迷惑でなければ、わたしも百さんに聞いて欲しいことがあって」

 何かにしがみつきたくて、ぐっとシフトレバーを握りしめた。わたしの温度にひきずられて、ひっそりと熱を持っている。今ここでチャンスを逃してしまえば、わたしはずっと、あの日から動けずにいる気がした。

「──それって、オレにとっていい話?」

 膝に肘をついて、百さんが両手で口を覆う。マゼンタの瞳が期待と不安に揺れていた。どう返すべきか悩んで、結局小さな首肯をひとつ。

「えっと、それじゃ……オレの家で聞いてもいい? もちろん、名前がよかったら!」
「いいんですか? 百さんも疲れてるのに、お邪魔してしまって」
「いいよ! 散らかってるかもしんないけど。うん……ていうか、来てほしい」

 指先から覗いた頬があかくなっているのを見て、心臓がぎゅっと握られたような心地がした。「はい……」とまた頷いて、正面に向き直してからハンドルに手を添える。どくどくと駆ける鼓動の音。どこからかわたし達を見ているのか、FMラジオから最近流行りのラブソングが流れだした夜、二十一時。



 先に百さんを降ろしてから、近くのコインパーキングに駐車する。車の電源ボタンを押して、シートベルト外してから「どうしよう」とハンドルに腕ごと顔をうずめた。ゴシップカメラが張っていたりでもしたら大事になるから元より時差をつけて行く気ではいたけれど、今はその時間稼ぎに助けられた気持ちだった。

 ──わたしの気持ちは、百さんにとって迷惑にならないだろうか。
 それはいつかの日。彼のことを好きになってしまってから、ずっと思っていたことだった。
 自分の気持ちに気づいた時は、それが伝わってしまわないように、ずっと心の中で隠しておこうと思っていた。心の奥にしまい込んで、鍵をかけて。どうか、見つかりませんようにと。
 奇跡が起こるみたいにして、百さんが同じ気持ちでいてくれたと知ったのは、その後のこと。
 取り出してもいいのだろうか。伝えてもいいのだろうか。誰にも見つからないようにひっそりと水を与えてきたその気持ちを。彼に。
 深く息をはく。意を決したように車から降りて、それからトランクにしまっていた仕事用の泊まりセットをこっそり鞄の中に詰め込んだ。
 ここからは、誰も知らないひみつの夜。くちびるを固く引き結んだわたしが、桟橋のように伸びる街灯の影を進んでいる。



「待ってたよ! ほら入って入って。あ、大きい荷物かして。散らかってて悪いけど、適当に座って」

 矢継ぎ早の百さんの声に誘われて、玄関口に靴を揃えてから百さんを追いかける。意外にもシックな色調のお家のなかに馴染んだどこか落ち着く百さんの匂い。誰かの家にお邪魔するなんてすごく久しぶりで、それも百さんの家とあれば緊張してもしきれないような気持ちだった。

「名前、なに飲む? お茶とジュースと、あとユキんちみたいにカッコいいワインはないけどお酒も──って名前、車だった! ……別にオレ的には、飲んでもらってもいいんだけどさ」
「いいんですか……?」

 思わずお伺いすると、少し頬を赤らめた百さんと目が合った。継ぎ接ぎの心臓がまた不器用な音を立てはじめて、「だ、代行とかありますもんね!」「そ、そう! タクシーならすぐ呼べるから! オレ冷蔵庫の横んとこに番号書いてるから!」とぎこちなく会話を貼り付け合う。結局、せっかく怒涛の連勤を乗り越えたんだから──とふたりで言い訳をつけて、アルコールで乾杯することにした。
 ソファに気持ち分のスペースを空けて、「カンパーイ! Re:valeもおかりんも名前も、皆おつかれ!」と百さんの声でグラスを重ね合わせる。一口飲むと、久しぶりのアルコールがからだの奥底に染み込んでいくのが分かった。新曲の発表時期はCMなどの新規契約の案件が増えやすくて、その外部交渉を岡崎さんが対応する間の事務作業をすべて請け負っていたから、みなさんほどではないにしろ疲れているのは確かだった。今までこれを一人でやっていたなんて、岡崎さんには本当に頭が上がらない。

 最初の缶が空になってもまだ話をする決心がついていないわたしの心を見越してか、百さんはたくさんの話題を振ってくれた。Re:valeの話。ユキさんの話。新しいCMの話。後輩たちの話。結成当初のお金がなかった頃の話。リビングに置いてあるサッカーボールのトロフィーの話。気が付くと時計は一周していて、ふたりのグラスはもう底に近くなっていた。
 話の切れ目にしんとした空気が流れる。こういうの、確かフランスでは天使が通るっていうんだっけ。幸運の天使には前髪しかない。今ここで話さないと、きっともうチャンスはやってこない。

「百さん。あの、わたしの話、聞いていただけますか」

 百さんは律儀にもグラスを置いてからこちらを向いて、「うん」と真っ直ぐにわたしを見つめた。きれいに繋がる言葉を選ぶような余裕はなくて、「わたしは、」と泡のような言葉が途切れ途切れに浮かんでいく。

「初めて自分の気持ちに気づいた時、それがいけないことだと思ってずっと隠してきました。わたしはマネージャーだから、特定の個人に出過ぎた感情をもってはいけないって言い聞かせて。……でも百さんがわたしに……好き、って言ってくれた時、びっくりしたのと同時に、ほんとうは涙が出るくらい嬉しかったんです。同じ気持ちでいてくれたなんて、夢みたいで」
「え……それって、」
「わたし、百さんのことが好きです。ずっとずっと、すきでした」

 アルコールのおかげか、口かせが無くなったようにするりと言葉が出た。はずかしさに落ちた視線のやりどころを探そうとしたとき、視界ごと何かに覆われる。鼻先まで近づいた百さんの香り。抱きしめられたのだと気付くまで、何度も瞬きを繰り返した。

「も、百さん?」
「──好き。オレも、名前が大好き。どうしよう。オレ今、世界で一番幸せかも」
「そんな。おおげさですよ」

 込み上げてくる愛おしさにつられて、百さんの服の裾をつかむ。それからゆっくりと背中に手を回した。わたしよりも少し高い百さんの体温がとけて、ひとつになる。からだの中をいい匂いのするものが通って、どうしようもなく幸せだった。

「ね。キスしていい?」

 わざわざお伺いを立てられると、どうも反応に窮してしまう。なんとか頷くと、百さんはそれだけでまた嬉しそうに笑って。
 どうしたらいいのか分からなくてくるみのように固く閉じたくちびるに、ふに、とした優しい感触が触れた。それだけで引き結んだ力がほどけていく。わたしの腕を掴んだ百さんの手のひらの熱が、あつい。
 離れた熱を追いかけるように薄く瞼を持ち上げれば、目が合って、また重なり合う。わたし、きっと今が今までの人生で一番どきどきしてる。すき。百さんのことがどうしようもなく、好き。軸の抜けたからだが、ソファに沈んでいく。見上げる角度になった百さんが、頬を真っ赤にしてわたしを見下ろしていた。

「ご、ゴメンっ。止まんなくて。オレ、怖くなかった?」
「怖くなんてないです! その、うれしくて……」
「良かった……オレ、女の子とこんなことするの初めてなんだよね。学生の頃はサッカーのことしか興味なかったし、Re:valeに出会ってからはもうアイドル一筋! って感じだったからさ」

 意外な過去を聞いて、また胸がきゅんと締めつけられる。百さんのことだから、きっとたくさんモテたはずなのにな。わたしが同じクラスなら絶対好きになっていたと思う。同じクラスじゃない今でも、こんなに好きになってしまったくらいだから。

「あのさ……よかったら今日、オレの家に泊まってってほしい。オレ、名前とずっと一緒にいたい。ダメ?」
「いいんですか? ……わたしも、ずっと百さんといたいです」

 はにかむような笑顔を見せて、また百さんのくちびるが降りてくる。お酒のせいでもない。夜のせいでもない。ただからだ中から溢れるような気持ちが、止まらない。
 また目が合って、視線が溶け落ちそうになる。瞬間、「あー、ストップ!」と百さんは勢いよく起き上がって、ぱちんと自分の頬を叩いた。

「えっと……とりあえず名前、先にお風呂入ってくる? オレ、その間パジャマとかタオルとか歯ブラシとか準備しとくから」

 百さんに腕を引かれる形でからだを起こす。シワになったスーツのスカートが目について、こくりと頷いた。わたしよりもずっと疲れているであろう百さんよりも先に入るのは少しはばかられるけれど、きっと今はその方がいいはずだ。
 カバンから下着や化粧品類を入れたお泊まりセットを取り出して、バスルームの扉を閉める。鏡に映る真っ赤な顔をした自分に気づいて、思わずぎゅっと目をつむった。二十三時の少し前。火照ったからだの熱が、シャワーに混じってしずかに流れていく。


 ベーシンにはスウェットとバスタオル、ペットボトルのお水に歯ブラシとドライヤーが丁寧にセットされていて、まるでわたし達の本来の仕事が入れ替わってしまったような気持ちだった。千さんと一緒にいる姿が多いからあまり気が付かなかったけど、少し余った袖の部分に、百さんだって男の人なんだって、今までにはなかったことを意識してしまう。そのまま普段の三倍速でドライヤーを済ませてリビングに戻ると、ソファから振り向いた百さんが「おかえり!」とこちらを見てはにかんだ。

「すみません。先に頂いてしまって」
「そんなの気にしなくていいよ! それよりちゃんとゆっくり入れた? てか名前、まだ髪濡れてんじゃん!」

 めざとく濡れた髪の束を見つけた百さんがそれを掬って、目が合ってからまた口付けられる。溶けてしまいそうなくらい、あまい。百さんが使ってるシャンプーだとかお洋服だとか、さっきと違う香りが鼻をくすぐって、くらくらした。

「あのさ、名前。……今日は、マネージャーとかそういうのは忘れてよ。オレだって、好きな子には何でもしたいし、できるとこみせたいし、その、優しくしたいんだ。だから、今日はただの名前でいて」

 どうしようもなく優しい言葉に撫でられて、頬から蒸気が上がってしまいそうな気持ちだった。「……はい」と頷くと、百さんは安心したように笑って、「それじゃ、オレも入ってくるから待ってて」とわたしの頭に手を置いた。
 視界の端ではわたしのスーツがちゃんとハンガーに掛けられていて、申し訳ない気持ちになりながらそっとソファに腰を下ろす。少しの後、聞こえてきたシャワーの音とこれからの予感に手のひらで顔を覆った。どうしよう。百さんと一緒にいると、心臓がいくつあっても足りないみたい。


 戻ってきた百さんもまた少し髪が濡れていて、それを指摘すると「ゴメン。名前のこと言っといてなんだけど……はやく戻りたかったんだ」なんて照れくさそうに顔を背けるから何も言えなくなる。そのまま寝室につれられて、先にベッドに座った百さんが「おいで」と手を伸ばした先にからだを預けた。そのまま抱きとめられて、ふたり、ベッドに沈む。見つめあって、またキスをする。同じものを使っているはずなのに、やっぱり百さんは少し違う香りがしてどこかこそばゆい。

「どうしよう。幸せすぎて、夢じゃないか心配になってきた」
「ふふ。わたしもです。百さんと同じ夢みてるのかも」

 くすりと笑むと、百さんはまたきらきらとした瞳をこちらに向けて「百瀬」と呟いた。「ももせ?」言葉を反芻する。

「家族も姉ちゃんも友達もみんなモモって呼ぶけど、オレの本当の名前、百瀬っていうんだ。春原百瀬。名前には、名前で呼んで欲しくて」

 百さんの指が、顔の前に落ちてきたわたしの髪をはらう。「百瀬」ゆっくり名前を呼ぶと、ひらけた視界の先の百さんが照れたようにしてまた笑った。それだけで、鼓動がまたひとつ高い音を立てる。「好き」思わず声がこぼれて、愛しさに突き動かされるようにして自分からキスをした。少しの後、はなれて、また磁石みたいに引き寄せられる。

「……ありがとう。オレも、大好き」

 ゆっくりと合わさった手のひらが、指を重ねてそっとシーツに沈む。キスは角度を変えて、どんどん深くなって。三十六度の微熱のなか、どうしようもなく溺れるような熱にしがみついた真夜中、二十四時。
 
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