パンケーキの斜塔 7

「ドア、音した!来た。来た」

 忙しない様子の青年に聖が言う。

「美夜さんがお買い物に行ったんですよ」
「…買い物…げっ!」

 悠太郎は置きっぱなしのピンクの財布を見つけた。

「あいつ、サイフ忘れてったぞ!」
「ふふ。美夜さんらしいですね」
「ふふ。じゃない!おい、ふくちゃん!美夜にサイフ届ける!」
「届ける!」
「――ちょ!サイフここ!!」

 ふくちゃんと呼ばれた青年が、サイフを受け取らずに一目散に玄関から出て行く。悠太郎は「あー、もう!」と言いながら二人を追って玄関を飛び出していった。


「なんとも賑やかな家だね〜。ボクの存在が掠れちゃうよ」
「そんなことないですよ。この家でも、十分存在感あります」

 聖はそう笑ってローレライに向き直る。ローレライはビデオ越しに聖を見たままだ。




「ビジュアルは文句なし。存在感も飛びぬけている。
 ――そして演技力も」
「何のことです?」
「いや、あのコが言ってた事は本当だなぁって思ってさ」

 ローレライは初めてビデオを下ろした。

「それでボクはキミの“最期”まで映画を撮らせてもらえるのかな?…と言っても撮る気満々なんだけど!」

 どこか挑発的なローレライに、聖はただいつもの笑みを浮かべてこう言った。


「パンケーキはお持ち帰りで宜しいですか?」


 * * * * *


 美夜たちが近くのコンビニから戻った頃には、もう奇妙な二人組の姿は無かった。ソファに座って美夜たちを待っていた聖さんの話によると、映画の話は丁寧にお断りさせて頂いたらしい。

「えー!手品のネタばらしは〜?」

 ふくちゃんがコンビニの袋をまるで旗のように振り回す中で、美夜の残念がる声が響く。勿論、聖さん主演の映画も楽しみだったのだけれど、何と言ってもあの鎖の手品のネタが分からなかったのが一番の心残りだ。
 悠太郎はというと、帰ってくるなり干された紅茶のパックを回収しに行った。そして何だかんだ言っても、聖さんに新しい紅茶を淹れてあげるのだろう。

「その代わりと言ってはなんですが、その方から伝言がありますよ」
「え!」
「『パンケーキ、ありがとう』――だそうです」

 美夜は少し低くなった斜塔を見て嬉しそうに笑う。そして聖にこう言った。

「さ、朝メガしましょう!」

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