パンケーキの斜塔 6 「あの有名な監督さんですね。私、映画にはあまり詳しくないんですが、お名前はよく耳にしますよ」 「わー、ボクもすっかり有名人だね!」 「あれですよね。ほら、タイトルが思い出せないんですけど…戦争モノの映画を作ってらしたでしょう?」 二人の遣り取りを聞きながら悠太郎が美夜に呟く。 「なあ…あれ絶ッ対、作品と監督の名前ごっちゃにしてるよな?」 「え?そうかな」 「いや!絶対そうだろ!!」 「美夜さーん」 二人の元に聖の声が届く。 「すみませんが、紅茶を買ってきていただけますか?いつもの銘柄でいいので。さすがにお客様に“二番煎じ”をお出しするわけにはいかないでしょう」 「ちょ!聖さん、昨日買って来たのどこいった?!」 「え?そのようなもの知りませんよ」 「嘘付け!!昨日すっげーニコニコしながら飲んでたじゃないですか!」 「美夜さん、頼みますね」 「了解しましたっ!」 「ぅおいッ!」 美夜は元気よく返事すると、悠太郎の止める声を置き去りにパタパタと玄関に向かう。 そして何かを思い出したように再び戻ってくると、ソラに向かってこう言った。 「さっきはありがとうございました!良かったらあのパンケーキ食べてて下さい。すぐにお茶買ってくるので。それと…」 「……?」 「それと…鎖の手品のネタばらしもして下さいね。そうじゃないと気になって眠れないので! ローレライさんもパンケーキどうぞー!」 「ありがと〜」 ソラは豆鉄砲食らったように美夜の後姿を見送る。 「行ってきます!」 美夜は一度だけ振り返ると静かにドアを閉めた。すると今度は聖が下りてきた方とは逆の階段から、ドタドタと誰かが下りて来る音が聞こえる。 [ ← ] | [ → ] ≪ ページ一覧 |