パンケーキの斜塔 5

 美夜は茶色の髪のスーツを着た男に駆け寄る。

「ナイスタイミングで帰ってきてくれて助かったよ〜。丁度ね、アキラさんを撮りにローレライさんっていう映画監督さんが来てるんだけど、アキラさんまだ寝てて…。それで起こしに行きたいんだけど……悠太郎?」

 悠太郎が押し込むようにして美夜を後ろへやる。そして美夜を背で隠すようにして前に立ち、階段の前に立つ二人に睨みを効かす。

「なぜこの家に?」

 ローレライは口角を上げながらビデオ越しに二人を見る。警戒心を持って疑問をぶつけて来る男と、張り詰めた雰囲気を感じ取りながらも状況が今一つ飲み込めていない女。
 なるほど。この家がどういう所なのか女は知らないのだ。

「悠太郎クンっていったけ?そんなに怖い顔しないでよ〜。ホントにボクらは映画を撮りに来ただけなんだから!」


――「何してるんですか?」


 今度は、白髪で細身の体つきをしたスーツの男が階段の上に立っていた。いつもは妖しい薫りを放っている切れ長な眼が今は半分閉じていて虚ろだし、欠伸交じりの声は覇気が無い。

「アキラさんが自分で起きた…」

 この世の終焉を見たかのように驚く悠太郎をよそに、アキラはローレライとソラを見遣った。ローレライは「あれ、男だったの?」とかなんとか言っている。アキラは階段を下りきると、ローレライの前に立った。

「私はこの家の当主の花崎聖(ハナサキ アキラ)です。あなた方は…?」
「ボクはローレライ。映画監督さ!キミの映画を撮りにきたんだ」

 聖はしばらく直立したまま動かず、それから半目のまま「ああ」と手を叩いた。

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