パンケーキの斜塔 4

「もっちろん!映画を撮りに来たに決まってるじゃない」
「ここには俳優さんも女優さんもいませんけど……あ!」

 美夜はなぞなぞが解けたぞと言わんばかりに、顔を明るくした。

「分かりましたよ〜。ローレライさんたちはアキラさんを撮りに来たんですね!」
「まあね」

 ソラがローレライに疑問符の付いた目線を向ける。しかしローレライは悪戯っぽく笑い返してくるだけだった。
 実を言うとこの二人は、アキラという人物など会った事も無ければ聞いた事もなかった。けれどもローレライは、それをあたかも知っているように振舞うつもりらしい。

「それは失礼しました!私、ここで家事手伝いをしている神田美夜と申します。
 えっと、アキラさんなんですけど、今寝て…じゃなくて、ちょっと用事があって外せないので、ここでお待ち下さい。もうしばらくしたら用事も終わると思いますので」
「ねぇそのアキラさんってさ、被写体としてどう思う?」

 突然の質問に美夜は戸惑う。

「えっ、被写体?うーん、そうですねぇ。
 まずビジュアルとしては文句ないですね。美人さんだし、髪の毛も肌も綺麗で雪のように白いし。あと、独特のオーラというか雰囲気を持っていて存在感抜群だし、演技力もあるかと…」

 美夜はアキラのポーカーフェイスにも似た笑みを思い浮かべながら、独りで納得するように頷く。あの詐欺師も顔負けの笑顔ならきっと演技力もあるはずだ。

「へえ!それは良いものが撮れそうだ。今回の主役はアキラさんにしよう!
 じゃあ早速、用事とやらで寝ているアキラさんを起こしに行こうか?」
「バレてるし…!」

 ローレライは勘で感じ取ったのか、アキラの寝室がある二階へと上がろうとする。美夜はローレライの言葉の矛盾に気付かずに会話を続けた。

「本当に駄目です!悠太郎から『絶対に起こしに行くな』って言われてるんです!」
「その悠太郎って人がこの家の偉いさん?」
「いえ、それはアキラさんなんですけど…実質家を支えている人は悠太郎っていうか…」
「アキラさんが主人に変わりないならいいでしょ。ボクは映画監督なんだよ?監督が役者を動かすのは当然の事さ!」
「確かにそうかも」

 いとも簡単に丸め込まれてしまった美夜の耳に音が入る。玄関のドアが開く音だ。

「ただいまー」
「あーッ悠太郎!」

- 36/40 -
[ ] | [ ]



≪ ページ一覧
- ナノ -