パンケーキの斜塔 3

 開いた口が塞がらなかった。美夜は飛び出るくらい見開いた目でソラが片手で軽々とメガパンケーキを運んでいくのを凝視した後、その目をもう一人の男に向けた。男は何故か家庭用ビデオレコーダーをこちらに向けている。
 腹出しマジシャンに、極彩色のビデオ男。美夜は二人をそう認識した。けれど、美夜の情報処理能力は今だ環境の急激な変化に付いていけず、頭の中は真っ白のままだった。

「あははっ!いい顔するね〜。今回の主役はキミにしようかな?…と言ってもボクはホームコメディを撮りに来たんじゃないんだけど!」
「はぁ」

 益々何を言っているのか理解できない美夜は生返事をする。そして最も根本的な質問を思い出した。

「えっと…どちら様で?」

 ビデオ男はサングラスを上げると、得意げにこう言った。

「初めまして!ボクはローレライ。フリーの映画監督さ!んでこっちはボクを助けてくれるソラくん」
「…映画、監督?」

 少し眉根を寄せて、ローレライと名乗った人物を斜めに顎を引いて見る。ローレライは美夜との会話にだるくなってきたのか、断りもせずにソファに腰掛けた。
 その見たこともないような派手な服装に極めて軽い言動。美夜が想像している映画監督とは程遠かった。

「それウソでしょ。映画監督って言うのはこう、メガフォン片手に椅子にドンと偉そうに構えていて、怖いおじさんが掛けるようなサングラスをしてて、こういうハンチング帽をかぶってるような…」
「強ちキミの言う“映画監督”とやらに遠くはないと思うけど?」

 美夜はローレライを観察する。
 偉そうにソファに腰掛けている姿。怖いおじさん…というよりはお兄さんが掛けるようなお洒落なサングラス。ハンチング帽の代わりの…

「頭巾以外は」
「キミに頭巾って言われるとなんだか変なキモチになるよ」

 ソラは二人の会話を聴きながら「メガフォンは?」と疑問を持ったが、その台詞はそっと心の中に仕舞うことにした。

「それで、その映画監督さんがこの家に何の用ですか?」

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