彫金師にペンダントを作らせてやった。 4

***


「おかえりなさい、ウィルの親方! 今マークの奥さんが差し入れにハニーパイを……誰ですかその子?」
「悪魔だ」

 ウィルは羽付き帽を取りながらランスに言った。

「悪魔とは失敬な、我輩にはヌモという名前がある!」
「失敬なのはお前の方だ」

 ウィルは額を押さえながら自身の作業部屋に入った。とうとう頭まで痛くなってきた。こんな子どもを神聖な作業場に招き入れるのは癪に障るが、さっさと注文を聞いて一刻も早く帰すことにしよう。明日の朝には品を渡しておさらばだ。そのためには徹夜だってしてやる。

「もう一度石を見せてみろ」

 ヌモはオパールが入った袋を渡した。ウィルはガスランプを点け、作業机の上に黒い布を敷き、その上にオパールを一つひとつ置きながら、じと目でヌモを一瞥する。

「確認するが、これは本当にお前のものなのか?」
「当たり前であろう、我が一族以外の誰がこんな上質なオパールを持てるというのだ! なんなら警察に窃盗の被害届など出ていないか訊いてみるがいい」
「ああ、そうするよ」

 ウィルは生返事な自身の声に、そうするつもりなどないことを自覚した。
 多くの疑問は残るものの、オパールの持ち主である点においてヌモが嘘をついているようには思えなかった。どうやら当たり屋ではないようだし、こちらを騙すつもりにしてももっと上手い方法でやるだろう。こんなに好き放題に振る舞う詐欺師など聞いたこともない。

(むしろ少しは猫をかぶって大人しくしてもらいたいくらいだ)

 ウィルは割れたオパールを様々な配置で並べながら、デザインを思い描いていく。石の大きさや作業時間を考慮しても、やはりブローチかペンダントが良いだろう。

「本当にアクセサリーなら何でも良いのか?」
「構わん。……ああそうだ、デザインはカッコイイ系ではなくキレイ系にしてくれ」
「語彙不足か? 後で文句言うなよ」
「おっと失礼、若者言葉が通じないことを忘れておりましたよっと」

 ヌモがふふんと鼻の穴を広げる。ウィルが完全に無視したのを見て、面白くなさそうに顔を歪めた。

「アラベスクのような繊細な模様で、モチーフは龍以外なら何でも良いが、直線と曲線のバランスが取れたものが良い。あっと驚くような仕様も必要だ、一度見て飽きるような品はいらない。
 注文ならいくらでも付けてやるが、とにかく早くしてくれないと困るから我慢する。自分で自分の首を絞めたいのならそうしてくれ、ただし早くできなければ君はクビだ。クビどころか末代まで呪ってやる」
「何故そんなにも急ぐ?」
「それは……」

 ヌモがゴクリと喉を鳴らした。

「言いたくない」

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