レイトショウ 4

 スクリーンの中の淫靡な行為に注目するよりも、美夜を横目で確認したゼロは内心かなり焦っていた。映像は言葉よりも端的だ。いくら恋愛に鈍感な美夜でも、スクリーンの中の二人が何をしているのかは理解しているようで、どこを見ていいのか分からずに目を泳がせている。

『っ……お赦し下さいませ……』

 王の相手をしているのはシエラザードではなくこれから殺される予定の女なのだろう。王から罵りにも似た言葉を浴びせられては、泣きながら赦しを乞うている。愛情もなければ慈悲もない。既に処刑してしまった妃への怒りをぶつけるように、ますます加速していくそれに、ゼロは何でもない風の仮面を被りながら苦悩する。
 すごく気まずい。美夜と一緒に見ているということが気まずい。なんとかしたいと思うものの、スクリーンの中の出来事に干渉できるわけがない。

(せっかく頂いたチケットだったけど……出た方が良いかもな)

 スクリーンの二人に反比例してゼロの頭は冷えていく。美夜が嫌な思いをしていないか、それだけが心配だった。腕を組むことすら恥じらう彼女がこんなものに免疫などあるはずがない。無理に見なくて良いし、見せたくもない。
 一際大きな嬌声に驚いて我に返ると、美夜は肩を強張らせてスカートの裾を握りしめ、目をぎゅっと瞑っていた。

「大丈夫ですか?」

 気付けに彼女の手に触れると、ぴくんと震えた。驚いた瞳でこちらを見た彼女の怯えた表情が、みるみる羞恥に染まっていくのを目の前にして、胸の中が焼け爛れるように疼く。それは自分を気の良いバイト仲間ではなく男として見てしまったからに違いなかった。

(いっそこのまま――)

 とんでもない考えがよぎる。いけない。抑制するゼロに美夜は「何?」と口を動かしている。彼女の混乱した仕草でゼロは自分の声が届いていなかったことをやっと理解した。

「外に出ましょうか」

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