雨の中の来訪者は 4

「いじわるな天気ねぇ。よほど悠太郎にゆっくりして欲しくないのかしら?」
「あーあ、たまにはゆっくりしてみたいよ」

 悠太郎は腕時計を見てさらに項垂れる。
 今日中に仕事を終えることができたら超人ものだな、と。

「じゃあ俺行くわ」
「あ、待ってね」

 美夜がカウンターから小さな紙と、棚の籠からお菓子を取って持ってくる。

「はい。店の地図と飴」
「飴?」

 透明のフィルムの包み紙に、薄い緑色の飴が入っていた。
 ふと飴の中の筋が、流れているような気がして目をこする。

「そよ風のひと時っていう飴でね、中に草原の風をたっぷり練り込んで閉じ込めてあるの。舐めている間は信じられないくらいリラックスできるのよ? 忙しい悠太郎にオススメ!
 シュー君とイチゴちゃんのお礼におごらせて」
「そっか、ありがとう。
 じゃあまた」

 悠太郎は店員たちに一礼して、忙しなくドアを出る。
 早く帰らないと。
 地図を見て早歩きしながら、さっそく貰った飴を口に放り込んだ。

(信じられないくらいリラックスできるんだって)

 美夜の言葉がもう一度聞こえた気がした。
 雨上がりとは違う、爽やかな風の匂いが口から鼻に抜けた。
 同時に心がふわりと浮いた気がして見上げると、空が突き抜けるように広くて驚く。
 鳥の声が聞こえた。

「ほんとにヘンなお菓子だな」

 悠太郎は二人の子どもの遣り取りを思い出して笑った。

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