雨の中の来訪者は 3

「だって密かに修業してたのが、バレちゃうじゃない」
「修行?」
「お菓子作りの修業!
 あ、でも、ここにあるようなお菓子は作れないの。素手で家を解体できるくらいマッチョにならないと無理だってジャンさんに言われたわ……だから来世で頑張るね」
「突っ込みどころが多過ぎてどうすればいいのか分からないが、お菓子って筋肉で作るんだったっけ?」
「そうよ」
「いや違うだろ」
「またまた分かったふりしちゃって〜悠太郎はお菓子作り初心者だもんね〜」
「いやいやいや」
「なんだなんだァ?」

 美夜の背後に大きな影が迫る。
 悠太郎が見上げると、エプロンをした厳つい大男が仁王立ちしていた。

「騒がしいと思って来てみりゃあ、何してんだおめぇら? 泥遊びか?」
「あ、ジャンさん〜違いますよ、取り留め深くもないワケが」
「まさか、お菓子を作ってるのって」
「ジャンさんよ?」「オッチャンだが?」

 二人同時に言って、「ガッハッハ!」と笑ったジャンを悠太郎はどんな顔をして見ればいいのか分からない。
 大よそ菓子屋に似つかわしくないこの厳つい人が、お菓子を作っているだなんて、ギャップがあり過ぎる。

「ジャンさんってすごいのよ〜。作れないお菓子なんて、一つもないんだから!」
「その通りですよ。それに、ジャンさんが作るお菓子って、誰にも真似できないんですよね! だからリピーターも多いんです」

 美夜とゼロの褒め言葉に、ジャンはウインクをして親指を立ててみせる。
 その姿がやけに型にはまっていて、悠太郎は感心したように頷いた。
 美夜の作ってくれるおやつが美味しいのは、この人に師事していたからだったのか。

「おう、どうせこんな天気じゃあれだ。しばらく茶でも飲んでゆっくりしていけや」
「晴れてきたわよ」
「「「「え」」」」

 イチゴの声に一同が窓の外を見ると、雨は土砂降りから霧雨に変わり、雲の間から陽が差してきている。

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