雨の中の来訪者は 2

「なんでって私ここでバイトしてるのよー! 悠太郎こそどうしたの?」
「え、いや……道に迷ってしまって」
「美夜、こいつと知り合いなの?」
「うん。――あ! イチゴちゃんケガしてるじゃない!」

 イチゴの膝から血が出ているのを見て、美夜はあたふたする。

「私、救急箱とタオル持ってくる!」
「あっ! 持ってきましたよ。そこに置いてます」

 ゼロがシュクルの頭を拭いてやりながら言った。
 見れば美夜のすぐ傍に、救急箱とタオルが置かれている。
 悠太郎との会話に夢中になっている時に持って来てくれたのだろう。

「あちゃー。またゼロさんにやらせちゃった」
「いいんですよ」
「だめよ! 気が利かないなんて、女の子として情けないわ……」

 嘆く美夜の傍、悠太郎がゼロと目が合う。
 愛想の良い感じで会釈されて、なんだか申し訳なくなってしまう。

「すみません、店の中を汚してしてしまって」
「いえ、気にしないで下さい。それよりも、ありがとうございました!」
「え?」

 ほら、とゼロが頭の拭き終わったシュクルの肩を叩く。
 おどおどした様子のシュクルの腕には、あの紙袋がある。
 少し湿って、くたりとしているが、中身は無事そうだ。

「これ、大切な買い出しだったんだ」

 強張っていたシュクルの顔が、中身の無事を確認して、ふわりと緩む。
 ああ、そうか。悠太郎は理解した。彼はあの雨の中で、「ありがとう」と言ったのだ。

「それは?」
「お砂糖」
「砂糖?」
「ったく、シュクルが全部悪いのよ。角砂糖だけじゃ飽き足らず、製菓用のお砂糖までココアに入れちゃうんだから!」
「ココアに砂糖?!」
「シュー君って超甘党なの」

 こっそり耳打ちした美夜に悠太郎の顔が引きつる。

「味覚オンチ本気で直さないと、もう一緒に買い出し行ってあげないわよ!」
「ごめん」
「あら素直ね。どうしてもって言うなら、一緒に行ってあげなくもないわ。
 べ、別にあんたのためじゃないけどねっ! みんなが困るでしょっ?」
「……? あ。そうじゃなくて……甘党なのは直せそうにないから、ごめん……」
「あんたねぇぇええ!!」
「そういえばここ菓子屋なんだってな」
「そうだよ〜」

 美夜がシュクルに噛みつくイチゴを笑顔で抱えながら言った。

「でも悠太郎がお客さんだとはね〜」
「来たら悪かったか?」
「悪くないけど秘密にしておきたかったの」
「なんで」

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