雨の中の来訪者は 1 「土砂降りになってきましたね」 「あぁっほんとだ!」 ゼロの声に顔を覗かせた美夜が、驚いて厨房から出てくる。 「シュー君とイチゴちゃん大丈夫かなぁ?」 「心配ですね……もうそろそろ帰ってくるはずですけれど」 ゼロはカウンターの上に置かれたビンを見た。 淡く金色の光を放つ液体の中で、金平糖が二重のらせんを描いて浮き沈みしている。 これはお菓子の時計だ。 読み方は店の者しか知らない。 時間を気にせずにお菓子を見て欲しい――そういう願いが込められているのだと、ジャンから聞いたことがある。 「おーい! オッチャンはかまわんから、あいつらを迎えに行ってやってくんねぇか? 手は離せねぇけど、後は仕上げだけだかんら、ひとりでやれる」 「あ、じゃあ、俺が迎えに行ってきますね」 厨房からのジャンの声に、ゼロがすぐに傘を持ってくる。 「すみませんけど、美夜さん、店番頼みます」 「うん。ありがとう」 店番、と言ってもこんな土砂降りでは客足も少ない。それを知っていてゼロは美夜に頼んだのだった。 (タオル用意しとかなきゃなあ) 美夜はゼロがドアを開けて傘を開いたのを見届けると、背を向けてタオルを取りに行こうとした。 その時だった。 「……えっ?!」 「おわぁッ!!」「キャー!!」 複数の足音と声が店内に雪崩れこんできた。 美夜が大きな音に驚いて振り返ると、誰かの上にイチゴが折り重なって倒れており、その傍では、シュクルが丸めた服を抱えて立っていた。 「いっったぁ……」 「大丈夫か?」 間一髪避けたゼロが、素早く傘を畳んで屈みこむ。 「これのどこが大丈夫に見えるのよーッ?!」 泥だらけのイチゴが起き上がる。 「何でこけるわけ?!」 「いや……ぬかるみに足を滑らせてしまって……」 イチゴの下敷きになっている青年が起き上がる。 「あーッ悠太郎!!」 美夜が目と口を大きく開けて指をさす。 悠太郎と呼ばれた青年も美夜を見て目を見開いた。 「えっ美夜? なんで?!」 ≪ ページ一覧 |