トワイライトショウ 4

「大丈夫?」
「……美夜さん……」

 騒ぎを聞き付けてやってきた警官が男を拘束して立ち去って行った後、美夜はようやく冷静さを取り戻したゼロに話し掛けた。

「すみません……駄目なんです、火と刃物だけは。我慢するのを忘れてしまいました」
「ううん! 捕まえるのに必死だったんだもの、仕方ないよ。バッグも取り返せたし、ひったくりも無事だったんだから良いじゃない!」
「そうでしょうか?」
「そうよ〜!
 あ、でも、やっぱり無事じゃないかも……」

 美夜は小声で耳打ちする。

「ちょっとだけなんだけどね、後頭部がハゲちゃってた。摩擦で」
「…………フフ」

 確かに無事じゃないですね。そう笑ったゼロに美夜もくすくす笑い出す。そんな二人の元にあの初老の夫婦がやってきた。婦人の足には包帯が巻かれているが、軽い捻挫で済んだとのことだ。

「本当に、ありがとうございました」

 老人がシルクハットを取って頭を下げる。

「何とお礼を言って良いのか……実は今日はわたくしどもの銀婚式だったのです。貴方がたのおかげで嫌な思い出を作らずに済みました」
「それは良かったです。おめでとうございます!」
「銀婚式? 素敵〜!」
「是非何かお礼をさせて頂きたいのですが……」
「いえ、そんな」
「あなた、あのチケットはどうかしら?」
「あぁそれが良いな。
 どうぞこれを受け取っては頂けませぬかな?」

 婦人に言われて老人が懐から差し出したのは二枚のチケットだった。紺地に金色で印字されている文字を読むと、大通りから離れたところにある映画館のチケットのようだった。

「“レイトショウ”のチケットです」
「レイトショウ?」
「大人の為に作られた“レイトショウ”という名の古い映画館がありましてね。わたくしどもが若い頃よくデートで通った場所なのですが、そこのチケットを取ってあったのです。上映時間までまだ十分間に合いますし、どうぞお若い二人で楽しんできて下さい」
「あなたたち、恋人どうしなのでしょう?」
「「恋人?!」」

 初めは遠慮したゼロと美夜だったがどうしてもと押され、結局はありがたくチケットを受け取ることにした。
 夫婦と別れた後、美夜がチケットの上映時刻を確認して声を上げる。

「うわぁ、9時からだって!」
「本当に十分過ぎるほど間に合いますね。上映まであと3時間もありますよ」

 時計台の時刻を確認したゼロが美夜に微笑んだ。

「美夜さん」
「ん?」
「今日が終わるまで、ずっと俺と一緒に居てくれませんか?」

 美夜はゼロを見詰める。まるでその気持ちが何なのか分からずに不思議がっている子どものように。

「……うん、良いよ!」

 少し遅れた返事がこの雰囲気を甘く変えていったことを美夜も気付いていたらいいな。
 そんなことを思いながらゼロは小さくガッツポーズをした。


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さらにパロってみる後編
(※微エロ要素ありなので御注意下さい)
→『レイトショウ

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