悪戯と報償 9

 聞き慣れた大きな声に視点を合わせると、頭にネジの刺さったジャンがこちらを覗きこんでいた。

「け、けほッ……ジャンさん?」
「もーっ! なんなのよあいつ?!
 ってこれ何の騒ぎよ?!」

 見れば美夜とイチゴを取り囲むようにして、沢山のオバケたちがいた。もちろん本物ではなく仮装した街の人々だ。彼らは二人の様子に安堵すると、ワイワイ言いながら各々定位置へと戻り再びどんちゃん騒ぎをし始めた。
 ここは約束のバーだった。

「覚えてねぇのか? おめぇら、広場で頭がグルングルン回る奴におどろかされたろ? その拍子にスコーンと意識を失っちまったんだと! そりゃビックリするわな! ダアァーハッハッハ!!」
「えっ?」
「あそこで唐揚げ食ってる奴が、おめぇらをここまで運んで来てくれたんだぞ?」

 シュクルと顔見知りだったんだなぁ。
 美夜とイチゴが見ると、頭巾を被ったガタイの良い男がいた。そして彼の目の前にはブクブクに太った白シーツのオバケ――シュクルがいる。二人は唐揚げとお菓子を掛けてトランプをしているようだ。
 そのトランプを持つ浅黒い手を見てイチゴが叫ぶ。

「あいつだわ! あたしたちに無理矢理、鬼灯食べさせたの!」

 ちょっとあんた、もっと他にやり方なかったわけー?! そう言いながら走っていったイチゴの背中を見ながら、美夜は自分が何かを握っていることに気が付いた。

「あ」

 開いた手のひらからコロリと現れたのは、二つの小さな蓮の花だった。その精巧な作りにニヤニヤ顔が重なる。

「悪戯、されちゃった……」

 悔しい。そう思うよりも安堵している自分がいる。
 まだフワフワと浮遊する意識を握りしめ、ただ今だけはこの賑やかなオレンジ色の空気の中に、強く繋ぎ留めておいて欲しいと思った。

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