悪戯と報償 7 ミスターは数多の《ユメ》の中から、ある一つを選んでイチゴに渡した。他の物には色が付いているのに、何故かそれ一本だけは透明だった。 「なにかしら?」 「鬼灯(ほおずき)ね」 隣で見ていた美夜が呟く。六角状の透明の果実が二つ付いており、中では激しい炎が踊っていた。触っても熱くは無いが、幻にしても食べるにはやはり躊躇する。 「鬼灯って?」 「お盆にはよく飾るのよ。そっか、ハロウィンもお盆だものね……」 「なんだかよく分かんないけど……キャッ?!」 また急に辺りが暗くなった。今度は鬼灯の灯りだけが消えずに残っている。 「彷徨うキミたちに灯をあげよう」 それが最後に聞いたミスターの声だった。あとは何もない静寂――二人は真っ暗な世界に閉じ込められてしまったようだった。 「……とりあえず橋を渡ってみよっか?」 「そうね」 しばらく呆然としていた二人だったが、鬼灯の灯りを頼りに進むことにした。 月や星の光りさえ無い闇の中。果たして橋を渡ることができるのだろうか……もしや永遠に橋の上を往ったり来たりしてしまうのでは? という美夜の嫌な予感は外れ、無事にカフェの辺りまで戻って来ることができた。それでも不安は大きくなるばかり。 「誰もいないね」 みんなどこへ行っちゃったんだろう? 美夜の言葉にイチゴは黙ったままだ。いつもの威勢の良い文句や強がりの一つも言えないでいるのは、心の底から不安を感じているから。美夜には容易に想像できたから、自身は不安を押し殺して普段通りに振る舞った。 もちろん自分だって、それをずっと続けられるほど強くは無い。気を張り詰めているから泣かないでいられるのだ。 もし今ジャンやゼロに会えたのなら、イチゴの前でも声を上げて泣いてしまうだろう。 「あっ」 角を曲がった時、二人は浮遊するオレンジ色の光を見付けた。 ≪ ページ一覧 |