悪戯と報償 4

 二人はグラスを空にして店を出ると、広場に向かって歩き出した。広場まではそう遠くない。欄干に並べられたランタンに嗤われながら橋を一つ渡り、広場の入り口に立てられた看板を横目に見ながら進む。何事もなくそこに着くことができた。

「やけに静かだね」

 しかし何か様子がおかしい。先程まで騒いでいたオバケたちがいなくなっている。あるのは地面に置かれた無数のランタンだけ。その灯火に照らされて、紐のようなものが落ちている。

「――あった!」

 尻尾だった。イチゴは急いでそれを拾ってくると付け直すよりも早く、美夜に「早く戻りましょ」と言って手を引いた。さすがに鈍い美夜もこの異様な空間から早く出たいと思ったらしい。短く返事をして踵を返した。

「こんばんは」

 二人揃って今日一番の悲鳴を上げた。
 互いに抱き合ったまま振り向くと、ベンチに誰かが脚を組んで座っていた。いつの間に現れたのだろう? 膝に頬杖をつき、チェシャ猫のような半笑いでこちらを見ている。声もそうだが格好もまた中性的で男女の区別が付かない。体の線を隠すように布を纏い、長い紫紺の髪には瞳と同じショッキングピンク色の花を飾っている。

「……ミスターがオバケに見えた?」
「み、ミスターって?」
「ミスターはミスターさ」

 どうやら彼自身のことを指しているらしい。実際のところ、彼がオバケに見えてしまったことには間違いないので、美夜とイチゴは恐る恐る「見えました」と頷いた。

「ふぅん……それは残念だなァ」
「えっ?」
「キミたちから、なにか、貰わなきゃねェ……」
「それはどういう……?」
「トリック・オア・トリート」

 鋭く伸びた爪が向けられる。

「ミスターを満足させるようなお菓子を頂戴」

[ ] | [ ]



≪ ページ一覧
Copyright c 2008-2015 石原マドコ
- ナノ -