悪戯と報償 3


 * * *

 この街の住人はかなりの祭好きらしい。そこら中でヴァンパイアやミイラが香り高き生き血(と称したただの葡萄酒)をあおっては、どんちゃん騒ぎをしていた。墓石になぞらえた椅子の上で団子になってくつろぐ黒猫たち――おそらく白猫も三毛猫も黒く塗られてしまっているのだろう、実に迷惑な話だ――、灯りの消えた街灯にぶら下がる首吊り男、コウモリのレースに賭けるインキュバスとその金を巻き上げるサキュバス、ゾンビの食い残したビーフジャーキーを奪い合うゾンビ犬――。悪趣味だと思えるものも、ランタンのオレンジ色の光の中では何故か滑稽で和やかなものに見えてしまうから不思議だ。

「これじゃあ、本物のオバケが混じってても分かんないじゃない!」

 一休みしようと入ったオープンテラスのカフェから通りを眺め、イチゴが美夜に言った。テーブルの上に置かれた二つのオバケカボチャの入れ物からはお菓子が溢れている。シュクルは兎も角、この二人ならばもう十分という量だった。

「あれ? もしかして、イチゴちゃんオバケ怖い?」
「べ、別に怖くなんかないわよ! おどかそうなんてしてきたら、ぶっ飛ばしてやるんだからっ」

 つい先ほど背後から血まみれのウェイトレスに話し掛けられて、悲鳴を上げてしまったことはもう棚に上げてしまっているらしい。美夜はニコニコと笑いながら、逆さま髑髏のグラスに口を付けた。イチゴの手元にも同じものがある。もちろん入っているのは血ではなくブドウジュースだ。

「だんだん仮装のレベルが上がってきてるような気がするんだけど……これって、ゼロさんの特殊メイク効果かな?」
「だわね」
「メイクじゃカバーし切れないはずのところまで行っちゃってるよね〜」

 下手なお化け屋敷よりもずっと怖い。広場で頭が360度回転する人に挨拶された時には、さすがに二人とも悲鳴を上げてしまった。

「ゼロさんは手品も使えるのねぇ。今度は鳩出してもらおうっと」
「あッ」
「どうしたの?」
「尻尾が無くなってる!」

 イチゴが叫ぶ。スカートにくっ付けていたはずの悪魔の尻尾が無い。とりあえず席の周りを探してみたが見つからなかった。

「もしかして……頭が一回転する人に驚かされた時に落としちゃったのかな?」
「そ、そうかも」
「じゃあもう一度、あの広場に行ってみよっか?」

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