悪戯と報償 2

 美夜が少し恥ずかしそうに帽子を取る。すると、なんとも絶妙な位置で結われたツインテールが現れた。下品な派手さもなく、かと言って大人し過ぎず愛らしい。対してアイメイクにこだわった化粧は、神秘的で大人っぽかった。
 その方向性の違いは拮抗するどころか、逆に美夜に多面性をもたらせた。口を開けて笑えば愛らしい魔法少女に見えるし、黙って微笑めば妖艶な魔女に見えてしまう。

「美夜にも一応、そういうものがあったのね」
「え、なにっ?! や、やっぱりおかしいかな?」
「逆よ」
「えっ?」
「……似合ってる……」

 二人に言われて美夜の顔がパアッと明るくなる。

「良かったー! こういう格好したことないから、ドキドキしてたんだ〜。これね、ゼロさんがしてくれたの!」
「やっぱりね、そうだと思ったわよ」

 イチゴが呟いた。言われなくとも、その衣装だって彼が手を加えたに違いない。仮装用にと売られている商品にしては、やけにデザインが凝っているし、サイズもわざわざ仕立てたようにピッタリだ。

「ここまで来ると気持ち悪いわね」
「ゼロさんは……?」
「急に予定があいちゃったからバイト入れたんだって。特殊メイクとか、仮装のお手伝いをするバイト!」
「ゼロったら何者よ?」
「本当に何でも出来ちゃうよね〜。今度はゾンビのメイクしてもらおっと!
 そうそう、それで二人とも仮装まだでしょ? だから借りて来たの! はい、これはイチゴちゃん用〜」
「コウモリの羽と、黒い尻尾?」

 嬉々としてイチゴの仮装を手伝う美夜がその出来栄えにうっとりと手を組む。

「あぁ、イチゴちゃんが小悪魔コスする日が来るなんて……っ! キュート過ぎて私もうメロメロだわ〜魂売ってもいいわ〜」
「う、売らないでよ! 扱いに困るでしょ?!」
「い、イチゴちゃん……羽が動いてるよ?」

 シュクルが顔を青くして言った。

「驚いたでしょ? 人の声を感知して、自動的に動くように細工してあるんだって〜」
「あら、可愛……鬱陶しいわね!
 で、シュクルは何なのよ?」
「シュー君はオバケ〜」

 と、美夜が差しだしたのは、穴の開いた白いシーツのようなものだった。

「仮装しても下っ端なのは変わらないのね」
「……ひどい……」
「実はこれもゼロさんの手が掛ってるの! シュー君、ちょっと被ってみて?」
「……わぁっ?!」
「どうしたの?」
「内側にポケットがいっぱい付いてる!」
「シュー君ならきっと両手に抱えきれないほどお菓子を貰うつもりだろうからって、ゼロさんが付けてくれたのよ? 良かったね〜」
「そうなんだ……嬉しい……」

 穴のあいた所から目だけを出したシュクルは、周りの子供たちがゾロゾロと家々を回り始めたのを見た。

「じゃあ、ぼく行ってくる」
「うん、頑張って太ってね! 私はゆっくり回ることにするわ〜。
 あれ? イチゴちゃんは一緒に行かないの?」
「だってシュクルったら、本気で街中の家を全部回るつもりでいるのよ?! 一緒に回ってたらあたしの目が回っちゃうわよ。
 べ、別に美夜と一緒に行きたいわけじゃないんだからっ!」
「やったー! イチゴちゃんとデート!」

 こうして美夜とイチゴは一緒に街を回ることになった。

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