悪戯と報償 1

 紫紺色に暮れ出した街にいよいよオレンジ色の光がぽつぽつと灯り始める。ジャック・オー・ランタンの光だ。怖いような、滑稽なような、作り手によって各々全く違った表情になるのが面白い。ゴクリと喉を鳴らしたシュクルにイチゴが顔を向けた。

「あんた、もしかして緊張してるの?」
「……うん」

 シュクルが頷く。

「トリック・オア・トリート……トリック・オア・トリート……ちゃんと言えるかな?」
「言えなきゃ逆にどうかしてるわよ!」

 イチゴがそう言うのも無理はなかった。シュクルは今日という日のために、何週間も前から毎日欠かさず、その決まり文句を練習してきたのだった。
 トリック・オア・トリート――なんて素晴らしい呪文なんだろう? たったその一言で、今日だけは誰もが無条件にお菓子を恵んでくれるのだ。仕事中も食事中も関係なく、呪詛のように呟き続けた練習の日々を思い出しながら、シュクルは気持ちを高めていく。

「あっ、いた〜!」

 ジャック・オー・ランタンで飾られた通りを一人の魔女が駆けて来た。その間延びした喋り方ですぐに誰だか解る。

「もしかして美夜も参加するの?」
「もっちろ〜ん!」

 とんがり帽のつばをカウボーイ風に上げながら美夜がウインクした。

「私、こんなに盛大なハロウィンなんて初めて〜! ジャンさんのお店でバイトしてなかったら、きっとこんなところに来れなかっただろうなぁ」

 そう、お菓子屋一行は街へハロウィン用のお菓子を売りにやって来ていたのだった。あまりにも好評だったため早々に全ての商品が売り切れてしまい、祭りが終わるまで各々自由行動をすることになっている。

「ジャンさんはフランケンシュタインの格好でバーに行っちゃったわ。今日は売り上げも絶好調だったし、飲みまくりたいんですって! 私も後で行くつもり〜」
「ちょっと、美夜。そのとんがり帽取ってみなさいよ」
「えっ? う、うん」

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