釣糸を垂らす翡翠は 3


  * * *

 お菓子の魚たちは一から十までジャンが作るのではない。魚の元になるザラメを流しておくと、それが様々なお菓子に出世して再び川を上って来るのだ。そしてそれを集めてくるのは、美夜とゼロの仕事でもある。

「さあ貼り紙もしたことだし、今日は沢山集めとかないとね!」
「そうですね」

 二人は釣竿とバケツを持ち、ザラメを放流した川へ向かっていた。店からそう遠くないところにあるその川は、意外に人気もなく絶好の“調理場”になっている。

「今日はどんな魚が釣れるかな?」
「魚じゃないのもいそうですね。マシュマロイカなんてあったし……エビまでいそうだ」
「大丈夫! どんなコでも、きっとフェルナンデスとお友だちになれるわ!」
「何ですそのフェルナンデスって」
「ほら〜、この間私が釣り上げたザラメ魚ちゃんのことよ〜!」

 釣竿で大物を釣り上げる仕草をしながら言った美夜に、ゼロは少し苦い笑みを浮かべる。

「名前付けてたんですね……」
「うん、でもちょっと失敗だったかな。情が移っちゃって売られていくのが悲しいの。いっそのこと買い取って育てようと思ってるんだけど……どう思う?
 あれっ?!」
「どうしました?」
「誰かいる!」

 二人が木の陰から覗くと、翡翠と灰が混じったような奇妙な髪色をした男が、背中を向けて座っていた。釣り糸を垂らして、銅像のように腕組をしている。傍には荷物、その上にはきちんと畳まれた外套が乗っかっていた。
 棒きれで作った即席の釣竿の精密さといい、外套の畳み方といい、どうやらかなり几帳面な性格らしい。

「まぁ! お店の商品を勝手に釣っちゃうだなんて許せないわ!」
「旅人のようですし、きっと知らないだけですよ」

 二人は男に近寄る。

「すみません、ここの魚は――」

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