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◆紫槻(=飛雪)×白哉
鐘が鳴る。
刻を告げる鐘が。
授業を終え、まだ朝の陽射しが窓から射し込む霊術院の廊下を、白哉は一人、歩いていた。
修練場から教室へ向かっている処だった。
「びゃーくやっ」
「…紫槻」
其処へ、掛けられた声に振り返ると、駆け寄って来る人物の姿が視界に入った。
先の鬼道実習の際、分けられた班が違った為に、彼…紫槻よりも、白哉の方が先に実技を終えていた。
それでも白哉は紫槻を待つつもりだったのだが、他に実技を終えていた者達が五月蝿くした所為で、終わった奴から次の教室に行ってろ、と問答無用で全員閉め出されてしまい。
仕方なく廊下を進んでいた処に、紫槻が追いついてきたと云う訳だ。
「なあ、腹ァ減ってねえ?鬼道使うと腹減るんだよなー俺」
…いきなりの話題が其か。
腹の辺りに手を当てながらぼやいた紫槻に、言葉を返そうと口を開いた瞬間、其を見計らったように隣からぐるる…と云う音が聞こえ、白哉は深く溜息を吐いた。
「‥‥‥。力の配分が下手なだけだろう」
紫槻は鬼道が下手な訳ではないが、威力の抑制が中々上手く出来ないらしく、制御するのに余分な力を使ってしまう。
霊力の消費量と空腹感は比例するのだ。
「じゃあお前はどーなんだよ?」
「‥‥‥」
未だに腹の虫を鳴らしながら問い掛けてくる紫槻に、少しは耐えろと思いつつも、白哉は黙り込んだ。
霊力を持っている以上何もしなくとも腹は減るし、当然ながら鬼道を使えば、多かろうが少なかろうが、霊力を消費する。
原理は同じなのだ、僅かに空腹だと感じるのも致し方無い。
「…減っていないとは、言ってない」
「正直でヨロシイ」
不服そうな白哉とは反対に、何故か満足げな笑みを浮かべた紫槻は、小脇に抱えていた教本やら何やらの手荷物の中の、風呂敷を開いた。
「ほら、やるよ」
「?」
取り出した物を手に、不思議そうな顔で見上げてくる白哉の頭を、こつん、と軽く小突く。
そうしてそのまま、彼の眼前で、紫槻は自分の手を開いて見せた。
「握り飯だ。好きだろ?」
そう言って笑う紫槻の手から、竹皮に包まれた其を受け取り、白哉はぱちぱちと目を瞬かせる。
「‥‥‥」
…別に、握り飯が好きと云う訳ではない。ただ、お前が握って来るから…などと、言ってやるつもりも無いが。
…そう、勝手に持ってくるから仕方なく食べているだけだと、白哉は自分に言い聞かせた。
「…中身は」
「いつものだよ。お前のはそれって決まってんだ」
紫槻は嬉しげに笑って、自分が持っている方を頬張った。
もぐもぐと咀嚼する彼に倣って、白哉も口を開きかけた、その時、背後から騒がしい声がした。
「うわ何だよ、いーもん持ってんじゃん!」
「ずりぃぞ黒津羽ー。ちょっと分けろー」
其は、先程講師にどやされる原因となった面々に加え、彼等とよく一緒にいる生徒達で、紫槻を挟むようにして白哉の反対側に並んだのだった。
「莫迦か、お前等にやったら俺の分がねえだろうが」
「既に一口食ってんじゃんかー」
「俺、もー腹減って死にそーなんだって」
「まだ死なねえ。大丈夫だ。蒼火墜あと五十発は軽い」
「そんなに撃てるか!」
急激に笑い声が辺りに満ちる中、白哉は押し黙ったまま、閉じた竹皮の包みを持つ手をそっと下ろした。
何故そうしたのかは解らないけれど、この嵐が早く過ぎ去ってしまえばいいと、心の中で呟いた。
「ほーらお前等、諦めてさっさと歩け。…紫槻、先行ってんぞ」
「おう」
まるで其を聞き届けたかのように、彼等の中でも中心的存在である生徒に捲し立てられ、喧騒はあっさりと廊下の先に流れて行った。
「?…何見てんだ、白哉」
「いや…」
私と違って、紫槻の周りには人が集まる。
そういう雰囲気を持っているのだろうか、学級にもすぐに溶け込んでいた。
…私は馴れ合いの為に此処に通っている訳ではないから構わないのだが、逆に其が気になるのだろう、紫槻は私の隣に居ようとする。
少なからず其を喜ばしく感じている辺り、私は此奴を縛り付けているのだろうか…。
「白哉?」
不思議そうに覗き込んで来た紫槻の視線を受け、白哉は誤魔化すように、再度包みを開くと、中の握り飯を頬張った。
「…美味い」
ふ、と微かに表情が綻んだのを、彼自身は恐らく気付いてはいないだろう。
其を見ていた紫槻が、顔を紅くして息を詰めた事も。
「…あ、当たり前だろっ」
彼は、照れた顔を隠すように背け、残りの握り飯を一気に口の中に突っ込んで乱雑に咀嚼すると、ごくりと大きな音を立てて飲み込んだ。
「っ、ほら!さっさと食って行くぞ…っ」…微笑うお前が見たいから、なんて、恥ずかしくて言える訳がねえ。
ただ此だけの為に、作って来てる、なんて。
しかし、そんな心中が伝わる筈もなく、何をそんなに急いでいるのだろうと小首を傾げながら、白哉の小さな唇が、再度ぱくりと握り飯を食んだ。
「ところで…お前の中身は何だったのだ?」
「あ?たらこマヨネーズ」
「…邪道だ」
「いって!何すんだよ」
「鱈子を唐辛子と塩以外に漬けるなど…」
「はいはい。白哉は辛子明太子好きだもんな」
「…美味いのだから、良いではないか」
「‥‥‥。」
「?」
「拗ねんなよ。可愛いから」
「っ…お前など知らぬ!」
「あ、…待てって」
「なん…、…っ!」
「米粒。」
「…ッこの…痴れ者が!!」
ばちーんっ。
「‥‥‥。接吻は行き過ぎたか…超痛え」
ありふれた、そんな日常の中で、
恋愛感情だなんてと
僕らは知らない振りをした。
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まだ二人が付き合う前のお話です。
無意識の独占欲も、喜ばせたいのも
全部恋心なんだよっていう。
シリアスが多いので
偶にはこんなのも、
如何でしょうか…?←
(~11.08/25)
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