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*朽木夫婦*






華のようだと、思った。
儚く微笑む、その様が。

その繊細な、優しさが。
華のようだと、思いました。






<to be in full bloom>






「――…白哉様…?」


午後の陽射しが薄い雲の合間から降り注ぐ縁側で、柔らかな呼び声が、白哉の意識を現実へと引き戻した。
ゆっくりと隣に視線を向けると、綺麗に澄んだその瞳が、真っ直ぐに己の姿を映し出している。

「…、…ああ…どうした?」

「何か考え事ですか?戻っていらしてから、ずっと上の空のように思います」

心配そうな顔をしてそっと覗き込んでくる緋真に、白哉は目元を和らげた。

「…いや、済まぬ。何でもない」

表情の変化こそ些細なものだが、他の誰と居る時よりもその雰囲気は柔らかい。
彼女でなければ、白哉にこんな空気を纏わせる事は出来ないだろう。

「それよりも、緋真…」

「はい」

「お前の気持ちは解るが、あまり目の届かぬ処へ行ってくれるな」

今度は、そう言った白哉が少しだけ眉を寄せたのが判り、緋真は困ったように微笑みを浮かべた。

「ごめんなさい…けれど、捜さなくてはならないのです。あの子を…」

共に死して、共に尸魂界へと送られない限りは、喩え家族であろうとも再会など不可能に等しい。
けれど、それを夢見るひとは何人も、何人も居た。
あの、人が人としての生活すらも送れないあの場所では、其が希望になり得るのかも知れない。
その中で私は、私が生きてゆくただそれだけの為に、あの子を見棄ててしまった。

白哉様、貴方はとても優しい方だから…。


「…こんな私の身を、案じてくださっているのですか」

「当たり前だ」

真摯な色を宿した、眸。
死神や当主として立つ時の鋭さを帯びてはおらず、何処か不安そうにさえ見える。

「それならば、白哉様」

その視線を受けながら静かに添えた繊手で、緋真は、きゅっと袂を握り締めた。

「白哉様も、私に隠し事などなさらないでください」

「…!」

言葉の内に秘められた直向きさに、微かに眼を見張った白哉が、緩慢な動きでゆっくりと顔を背けた。

「‥‥‥」

そうして、綺麗な黒髪の下に隠れて揺らめく桔梗色の瞳を、緋真は尚も見詰める。

身分違いの恋ではあった。
其は充分に自覚している。
私は、私を愛してくださっているこの方の、重荷にも、なってしまっている。

白哉の立場からして、周囲にあまり良い目では見られていないであろう事も解ってはいたが、知られまいとしている白哉の意思を汲み、緋真は口にしなかった。
その優しさ故に彼が、知らず知らず傷付いている事も。

それでも、と不意に触れた彼女の指先によって丁寧に持ち上げられた白哉の右手を、そのまま小さな両手が優しく包んだ。

「…、緋真…?」

「白哉様」

名を呼ぶ緋真の手のぬくもりに落としていた視線を、ゆっくりと持ち上げる。
自分と似ているようで、全く違うもののように思える虹彩の中に映る己と、眼が合った。

「どうか私の前では、本当の自分を、押し殺したりなさらないでください」

可憐な指先の片方が、白哉の掌から離れて、艶やかな黒髪の掛かる頬に、触れた。


「…、…怖いのだ」

其に自分の手を重ねながら、もう一方は触れ合わせたまま、白哉は少し眼を伏せた。
目元に影を下ろす長い睫毛が瞬きをする度に震え、男性的なものとは懸け離れているその様が、酷く美しい。
手折られた一つの枝から、ともすれば枯れてしまう事もある桜に似て、本当はとても繊細な、ひと。

「今を幸福だと感じるだけ、…いつか喪うのが」

…喪いたい訳ではない。
必ず護ると誓った。
けれど、ある日突然父を亡くした記憶が、ずっと、心の奥底に留まり続けていて。
その"いつか"がいずれ訪れてしまうのではないかと。

眸の中に湛えた憂いを覆い隠すように、瞼が一度、瞬く。
陽光に煌めく睫毛が揺れる。

「白哉様」

「‥‥‥」

「恐れも幸せも、一人ではなく、二人で、共に背負いましょう」

この方の哀しみを目にすると、心が揺れ動くと同時に、どうしてだか、いとおしさも募って。
――この方と共に在りたいと。


「嫌なことは、半分になります。良いことはきっと、二人分になりますよ」


ふわり、と、目には見えない華が舞う。
儚げに咲く、可憐で綺麗な薄紅の華。

「だからどうか、緋真にもお分けください。白哉様」

「緋真…」

微笑みを浮かべる彼女の小さな身体を、白哉はそっと、壊れ物にでも触れるように丁寧に抱き寄せた。
淡く咲き誇る華に満ちた、春のようなあたたかさ。
この身を包むそんな幸福が、続けば良いと、ただ願う…。









咲く者達、
(いのち さきほこれ)


(11.06/22~12/11)



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