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恐ろしい程静かだった。もしやナマエはまだ帰ってきてないのか。いや待て、俺は何故今までナマエが無傷だと思い込んでいたのだろうか。そう考えただけで体の中心がずしりと重くなるのを感じる。あんなに急いで家まで来たのに玄関のドアを開けるのに躊躇するなんて。自分はこんなに臆病者だったかと嫌悪感さえ生まれてきた。その感情から、もう一度携帯電話を確認しようとしたのを振り切ってドアを開けた。



「いいか、もし幾ら金詰まれても旅団とは関わるな」

「…」

「俺はな、」

「分かった」

「…あん?」

「蜘蛛とは関わらない。約束」

「…ああ」






「…ナマエ?」


真っ暗な部屋の中でナマエは一人俺の残した書き置きを見ていた。呼んでも俯いたままの性で顔が見えない。心なしかナマエの後ろから注す月光も邪魔だ。
力が抜けて思わず倒れるでも何でもしそうだった。ただナマエが顔を上げない事だけが進む足を重くする。

ふと何かぼんやり光っているように見え足元を見ると放られたアタッシュケースが横たわっていた。麻痺しかけていた頭がはっと冴え、急いでナマエとの短い距離を埋める。駆け寄り肩を掴んだ所でやっと顔が見えた。

何だってこんな時にも無表情で泣いてやがるんだ。


「怪我、したのか」


血の臭いがしなかった性で気付かなかった?いや本人は弱々しいが首を横に振っているし痛がっている様子も無い。外傷はないはずだ。


「ごめん」


紙を握り締めたままのナマエは消えるように呟いた後、それを飲み込むように嗚咽を漏らして泣き始めた。こんなに泣くのを見るのは二度目だ。手首で目を擦り身体を震わしながら泣いていた。もしかしたら肩を掴んだのは余り良くなかったかもしれない。様子を伺いながらも背中に手を回し強く抱き締めた。


「今日いきなり決まった仕事だったらしい。その場にいた奴ら以外には伝わってなかった」


まだ泣き止まないナマエをあーもう泣くな!と背中を摩るなり頭を撫でるなりしてどうにか泣き止ませる。と言うより本人はまだ混乱状態のようだが涙を無理矢理拭いてソファーに放り投げた。受け身くらい取れんだろ。そう思った通りナマエは軽くぼすんとソファーに埋まった。
何年かの経験上こいつは寝れば忘れる。何時までもうだうだ考えてるから頭も痛くなるんだ。過ぎたことはもうどうにもならない。今のナマエはそんな既知の事を頭の隅に押し出してる状態な筈だ。


「寝ろ」

「何、」

「俺が見ててやるから寝てろって言ってんだよ」


せっかく起こした上半身は俺の手によってもう一度クッションに埋まる。ナマエの頭の方の肘掛けにもたれ掛かると抵抗のつもりかジャージを引っ張ったり背中を押していたが、暫くすると諦めたらしく静かになった。
さて、どうすっかな。


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