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悪夢から覚めた様な気怠さに押されてアタッシュケースが音を起てるのも気にせず膝を着いた。部屋は消灯してありフィンクスの姿は無い。緊張の糸と同時に私を動かしていた糸も切れたのかと思うほど体が動かなかった。怪我はしてない。物も奪われてない。何も失敗は、無い筈。

自分しかいない部屋は思ったよりずっと静かだった。





十分ぐらい経っただろうか。何か切っ掛けがあった訳ではないけどぼーっと曇っていた視界がふっと通常に戻った。雲間から抜けた月明かりが窓から注しアタッシュケースに反射していて眩しかったからかもしれない。とりあえず立ってみた。首が重くて倒れそうだったから思い切って上を向く。

私がテーブルの書き置きに気付いたのはその時だった。雑な文字で「出掛けて来る 時間かかったら連絡する」と書いてあり、ほぼ反射的にくすりと笑ってしまった。時間がかかってから連絡するんじゃ意味ないじゃない。まあ慣れてきたけど、でも今すぐ電話してでも帰ってきて欲しい。


…本当に?


書き置きを見てそう思ったことにふと靄が掛かる。あの二人を見て初めに感じた違和感がふつふつと沸き上がるような感覚。手に取ったままの書き置きをぼんやり見詰めている内にいつだかは忘れてしまったが、フィンクスが零した愚痴を思い出した。



「まったく散々だったぜ。フェイタンの野郎下らねえことでキレやがってよ」

「旅団の人?」

「ああ。クソチビ…って言ったらキレたんだがな、頭から足まで真っ黒でな」

「へえ…」




そうだ。あの時は無意識に連想していたんだ。あの二人は蜘蛛。フィンクスが一番気をつけろといっていた蜘蛛。
ならば、彼との約束を破ってしまった。もしかして初めてかもしれない。何処かで分かっていたはずのことが背筋を寒くする。
漸くだんだん自分の胸の内が分かってきた。怖くて仕様が無いのだ。フィンクスの落胆するのは見たくない。突き放されてしまうのが一番怖い。失う事が怖くて仕方ない。嫌だ。怖い。

何時しか握った書き置きは涙で濡れてしまっていた。ただ胸の中に篭る罪悪感を吐き出すこともせずに、咽ぶ訳でも無い。だから自分は泣いているのでは無く涙を流しているのだ。


こんなにも彼に会うのが怖いなんて。


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