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いくらナマエでも二、三十分や其処らじゃ帰って来ないだろうし、退屈だ。アジトにでも行けば誰かしらいるか?やることも無いし行ってみるか。
少々騒がしかったテレビを消して携帯電話を持ち、一応出掛けるという旨のちょっとした書き置きを残した。特に約束してもいないがお互い仕事中には電話をしない。仲間や依頼主と取り違えるなんてことあったらみっともねえしな。





「お?珍しいな、団長がいるなんてよ」


アジトに到着するとすぐに団長が廃墟に似つかわしくないソファーに座っていた。裸コートは普段からなのか?


「用事でな」

「そうか。何か仕事無えのか?」

「ああ…もう少し早ければあったんだが」


何だよ仕事あったのかよ。大体仕事は電話やらメールやらで暇な奴とか全員とか召集がかかるんだが、急ぎだったんだろうな。さらに団長がわざわざアジトまで来て待ってるってことは余程心待ちなのか何なのか。珍しいことが二個も続くなんて雨降んなきゃいいんだが。雨降るとあいつ欝みたいになるからな…。

仕事終わった奴らが来るまでちょっと待ってみるか。適当な瓦礫の上に横になって一応ナマエから連絡が来てないか確認する。家を出てから既に一時間と少し経っていた。今日は意外と掛かるな、なんて思いながら欠伸を一つ。団長は相変わらず本を読んでいた。





肘が痛くなり仰向けに寝返りを打った所で団長の携帯電話が鳴った。何だ、助っ人でも必要になったか?本を置いて相変わらずの猫背で、というか膝に肘を付いて電話を耳に当てた団長を見ていると、何やら少し眉間に皺が寄ったのが遠目でも分かった。


「じゃあ一回戻って来てくれ」


考え事をする時口元に手を当てるのはおそらく団長の癖なんだろう。膝に肘をついたまま切った電話を見詰めている所を見ると盗みが失敗したのかもしれない。





十五分くらい経ってからアジトに戻ってきたのはフェイタンとシャルナーク、ノブナガだった。蜘蛛の中で仕事に来る常連組だ。いつもと違うのはノブナガが刀を腰から下げている以外全員手ぶらだということだった。獲物が小さければポケットに入っているというのも有り得るかもしれないが今回はそうではないだろうと思わせるのは、三人の不機嫌な表情とオーラだ。フェイタンに至っては己を静めようとしているかのように瓦礫に座り込んでしまった。
微かだが血の匂いがする。…フェイタンか?何か黒装束切れてるし。


「何があった?」

「取られた、っていうか盗り損ねた。運び屋がいたんだ」


珍しくしゅんとした様子のシャルナークが肩を竦めてから腰に手を当て、今度はどこか恨めしそうに言った。

「運び屋」と聞いて、もしかしたらばれるんじゃないかと思うほど心拍数が上がり、肩から胸にかけてに寒気が走った。まあ待て、この世に何人運び屋がいると思ってる。…それほど沢山いる訳でも無いが。いや、ナマエじゃないことを祈るしか無え。
恐らくいきさつを話すであろうシャルナーク達と団長との会話に上半身を起こして耳を傾けた。


「だが、運び屋がいるのは分かってたんじゃなかったのか?」

「…分かってた。けどまさかあんなに腕が良いとは思わなかったんだ」

「そいつ、生け捕りにしようと思たら逃げたね」

「逃げた?」

「瞬間移動したんだよ、多分」


ナマエだ。きっともう覆すことの出来ない結論だった。話の流れからしてフェイタンに一発食らわせたのもその運び屋だろう。瞬間移動をする能力者と言うと探せば居るかもしれないが、蜘蛛を撒ける程となると尚更だ。
一番恐れていた事が遂に現実になっちまった。ナマエが蜘蛛と接触する事。つまり団長がナマエ、そしてその能力を知り興味を持ってしまうこと。
俺達蜘蛛は盗賊だ。欲しいもんは力ずくで奪い取る。厄介なのは団長に限ってはそれが能力であろうと奪うことだった。この男は、一度狙った獲物は例えどんな手を使ってでも手に入れる。


「そいつについて調べられるか?」

「勿論!俺も悔しいし」


丁度シャルナークが自室に戻った頃だろうか。意味が有ったのか無かったのかは分からないが、平静を装ってアジトを出た。月が明るいせいか頭が痛い。
いつもなら仕事が終わればナマエから連絡が来る。なのに今日は来ない。
無我夢中で走ったか歩いたかはもう覚えていない状態で、電気が点いているのかも分からない自宅に駆け込んだ。


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