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エピローグ



電灯の照らす明るい室内で電話が鳴る。
ナマエがソファを独占して寝転がっているせいで床に胡座をかいていたフィンクスはジャージのポケットから音源を探り出すと、発信者の名前を見て薄っすら顔を顰めた。


『俺だ』

「なんだよ今度は旅団にでも勧誘する気か」

『そうではない。ただお前らの痴話喧嘩の所為ですっかり本の事を忘れていた』


ああ、とソファの足元を見たフィンクスは銀色のアタッシュケースが光を反射させているのをぼんやり眺めながら、そういえば何故ナマエはまだこれを運ばないのかと首を傾げた。彼が其方を見ていることに気付いたナマエは怠そうに上半身を起こすとその電話をする様子を観察し始めた。


『本を渡すのは取引きだと言っていた。条件を聞かせてもらおう』

「二度と話し掛けるなとかかもしんねえぞ」


笑いながらそう返したフィンクスにクロロも鼻で小さく笑った。それを渡す条件を言えと言っている、と電話を手渡しながらケースを指差すと、ナマエは面倒そうにしながらそれを受け取った。


『こんにちは』

「…こんにちは」

『怒っているのか?』

「うんざりしてる」

『そうか。それは災難だな』


からかうような口調のクロロにナマエは受話口を手で塞いで大きく溜息を吐いてから話の続きを待った。


『まだ本を持っているんだろう』

「…あれはもう運んだわ」

『いや、そんな事はあり得ない』


ナマエはケースに手をやり伸ばした脚の上にゆっくり置いた。蚊帳の外となったフィンクスがそれを開けようとしたからである。彼が面白くなさそうに床に寝転んだのを見てからナマエは電話の先の抜け目の無い犀利な男にやはりうんざりした。


『取引きといっただろう。俺たちは労力を、そしてお前はケースを』

「殺すなら私が報酬を貰ってからでよかったでしょ」

『じゃあやはり、条件とは依頼者の抹殺だったんだな』


今度は受話口を抑えず溜息を吐き、拗ねているフィンクスにアタッシュケースを手渡したナマエは、クロロの言葉に返事せず電話を彼に戻した。それと同時に自分のパソコンを取り出し、返事の無いまま途切れたメール何件かを削除する。

依頼された物を運ぶことが出来ないとなれば依頼人を黙らせるしかない。さらに今回の場合本一冊を厳ついアタッシュケースに入れるくらいなのだから、永遠の口封じをしなければ面倒なのである。その事をクロロは読んだ上、おままごとの様に容易く完了させたのであった。


「渡して来る」

「余計なこと答えないでね」


うんざりした様子のナマエに、口を横に引き話さない、とでもいうような表情を作ったフィンクスはひょいとアタッシュケースを持ち上げてアジトへ向かって行った。
もう幻影旅団には、正確に言うと団長のあの男には会いたく無いとナマエは最後に大きく溜息を吐くのであった。

偶然とも必然とも言えるこのいざこざは、彼と同棲している以上やはり、必然なのかもしれない。


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