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たまには



朝から出掛けるのなんて久しぶりだ。それもフィンクスと一緒に。私達二人にはあまりよく分からないけれど、世間一般の通勤時間にちょうど被ってしまったらしい。ホームに着くと等間隔に人が五、六人づつぐらい並んでいた。私は移動を念能力に頼っているから電車なんてめったに使わないけれど彼はそうでもないらしく、どこも大して変わらない人混みの一つに適当に紛れ込んだ。


「フィンクス人混み嫌いじゃなかった?」

「嫌いっつーか、うぜえ」

「そう」


嫌いなんだね。別に言い換える必要は無かっただろうけど。
構内にアナウンスが流れて、左の方から光が近づいて来る。通り過ぎた先頭車両には既にぎっちり人が詰まっていて暑そう。もう一度アナウンスが流れると同時にドアが左右に開いて中から数人が押し出されたように出てきた。それでもまだ中には人がいっぱい。
フィンクスは隣で小さく舌打ちした。殺さないでね。電車止まっちゃうからね。

電車に乗り込むとフィンクスは私の手を引いてぐんぐん奥に進んでいった。押された人々が迷惑そうに横目で見てくるが、私達に効果は無かった。
本当に狭い。私達の後から乗り込んだ人達によってぎゅうぎゅうと押される。よろける私を見兼ねたのか、フィンクスによって座席とドアの角に押し込まれた。彼が私の後ろの壁に手を着いた事で視界はほぼフィンクスだけになる。
なんだか、時々彼がとる紳士的な行動には何故か緊張させられる。


「狭いね」

「暑い」


距離ゼロの状態のため背の高い彼を見上げ小声で言うと同じように返された。
それほど遠くない目的地に到着するのもあと少しだけど、たまにはフィンクスに引っ付くのもいいな、と目の前のジャージを握った。


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