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only you!
「…まだ怒ってるか?」
「…」
「おーいナマエー」
ナマエは普段から言葉数が多くない。だから怒ってるのかどうだかわかんなかったんだが、やっぱりまだ怒ってるらしい。
原因は俺の不通知。蜘蛛の仕事で1、2週間居ねえってことをナマエに言い忘れちまった。悪いのは俺だ。それに関しては言い訳はしねえしちゃんと謝った。だけどソファーに膝を抱えて座るナマエは依然として口をきかない。
近寄ったらナイフでも投げられるんだろうか。そう思って数分間少し離れた床に胡座をかいていたが、沈黙に堪えられずこれまた少し離れてナマエの隣に座った。でもなんとなく腕は組めねえ。
微動だにしないナマエは目の前のテーブルのあたりをぼんやりした目で見ている。
「あー、何だ、ナマエ」
「…」
「連絡しなかったのは悪かった。だからいい加減なんか喋ってくれ」
まったく俺のこんなとこ蜘蛛の奴らに見られたら大爆笑だろうな。けど爆笑されようと何だろうとこいつだけは離せない。ナマエがいなくなったら俺は正真正銘のどうしようもねえ人間になっちまう。
「別に怒ってない」
久しぶりに聞いたナマエの声は確かに怒ってはいなかった。かといって無機質でもない。何か続けそうだったから立てた膝を引き寄せ腕に顔をうずくめるのを黙って見ていると、「でも」とくぐもった声が聞こえた。
「私にはフィンクスしかいないから」
もしかしたらナマエは俺には蜘蛛がいるけどとでも言いたかったのかもしれない。「だけど」とさらに続けようとしたその腕を引っ張るといつもより力が入っていなくて、簡単にこっちに倒れた。自然と膝枕状態になる。
「置いてかれても追い掛けるから、」
「…ああ」
頬に伸ばされたのは小さい手。正面からナマエを見て分かったが、いやなんとなく分かってはいたのだが、少しだけ目元は赤い。
「その変わり逃げても追い掛けるからな」
手を握り頭を撫でると満足げに微笑み、頷いた。
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