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こんなこともある



「フィンクス?」

「あ?」

「これ見て大丈夫なもの、じゃないよね?」


テーブルの上に無造作に置かれた三、四枚の資料。何だろう、と手に取りそれを見たナマエはすぐに目を反らした。
一方冷蔵庫を物色していたフィンクスはナマエの慌てた声色を察したのか扉を閉め、キッチンからダイニングを覗き込んだ。


「ああそれか。次の仕事の資料」

「ちょっと見ちゃったよ」

「別に、いいだろ」


あっけらかんと答え冷蔵庫の前に戻ったフィンクスにそう、と呟くとナマエは好奇心から遠目にもう一度資料を見た。表紙には地図。一、二ヶ所に赤で丸が書き込んである。後ろ手に資料を覗き込んでいたナマエがあまりにもじっくり見ていたのを見兼ね、肴を片手にフィンクスがそれを持ち上げて「そんなに気になるなら見りゃいいだろ」と持たせた。
普段フィンクスの仕事に深く干渉しないナマエがこんなに反応を示すのにはもちろん理由がある。


「次の仕事がこの美術館なの?」

「ああ。相当興味あんのか団長も来るらしい」


ぼすんとソファーに座り込んだフィンクスの隣に手元に視線を向けたままのナマエがそっと腰を下ろした。
やや騒がしいとも感じられるテレビからの声達をバックに、ごくりと一口ビールを飲み込む音とべらりと紙をめくる音が微かに響いた。今だ視線を動かさないナマエが手探りで自分の携帯電話を探しているのを見たフィンクスが釈然としない、といった様子で缶をテーブルに置いた。


「何だよ行きたかったのか?そこ」

「んー」

「今からでも行かせねぇぜ。予定が立ってるってことはいつ偵察メンバーが行ってるかも分からん。」

「…そうだね。じゃあやっぱそうする」


噛み合わないような気もするナマエの相槌に「あん?」とフィンクスの視線がテレビからナマエへ転換する。やっと資料をテーブルに置いたナマエは探り寄せた携帯電話を開き少しの間慣れない操作でボタンをぽちぽちと押してから閉じた。一方フィンクスはというと一連の動作の間ナマエとその手元を交互に見ていた。用が済んだ携帯電話をソファーの隅に押しやってふう、と足を伸ばすナマエ。数秒してから正気を取り戻したフィンクスがそんなことするから行方不明になるんだろ、とそれをテーブルに移した。


「すげえ気になるんだが」

「お仕事を断ったの」

「そこだったのか?」

「うん」


テーブルの上の資料を指差すフィンクスにナマエが答える。「そうか」とフィンクスは浮いていた背中をぼすんとソファーにもたれかけた。
その後ぶるぶると振動し音を立てた携帯電話にナマエは出なかった。仕事より自分を優先するナマエになんとも言えず、フィンクスはナマエ頭を撫でた。


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