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春うらら
ガチャッと音を立ててドアを開けるといつもはナマエがひょっこり顔を出すが、今日は見当たらない。確か今日は一日中家にいるとか言ってたような気がする。買い物か?と一瞬考えてから、出たくないからと買い溜めをしていたのを思い出した。
キッチンを通り越してリビングへ。ソファを後ろから覗き込むと思っていた通りナマエが毛布を被って寝転がっていた。
「冬眠でもするつもりか?」
頼まれて買ってきた新聞を頭の上に置くともぞもぞと毛布から手を出しそれを掴み、温さが逃げないようにしながらゆっくり起き上がった。冬眠した熊なんて見たことないが、それが起きるときはこんな感じなんじゃないかと思いながらナマエの一連の動きを見ていた。
「もう寒くもねえだろ」
彼女が気温予報を見ているのに気付き明日の気温を指差す。もちろん何度が暖かいか寒いかなんて見ても分からないがナマエを動かす理由くらいにはなるはずだ。
「13℃…まだ寒い」
「寒くねえよもう花なんて咲いてやがる」
しばらく気温をぼうっと眺めていたナマエは一度俺を見てからもう一度視線を戻し、間を置いて突然笑い始めた。ぎょっとしてナマエの持つ新聞を取り上げ眺めるが彼女が笑う理由が分からず気でも狂ったかと口元を抑えながらの本人を見た。
「フィ、フィンクスが花見て?歩いてたの?」
どうやら俺が花を眺めながら歩いている所を想像して笑い出したらしい。今度は直接顔を見て笑い始めたナマエに何もする事は出来なかったが、ようやくこれでこいつも外に出るだろう。ただし花を眺める俺も一緒に。
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