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遅めの教訓
「フィンクスあのね」
「ん」
「んー」
「何だよ」
「何でもない」
ソファーに座ってテレビを観ているフィンクスの太股に足を乗せて、ひじ掛けを背もたれにして座る。私の曖昧な言葉がどうしても気になるらしい。彼は少しだけ視線をこちらに移して「仕事でも入ったのか?」なんて聞いてきた。
言うべきか言わないべきか。どうしようかなーなんて呑気な言葉を頭に浮かべるが、心なしか自分の心拍数が上がっている気がする。
「あのね」
「んだよ」
「今右手折れてるの」
そう言いながら右手をお腹の上に置く。視線をテレビに向けつつあったフィンクスが慌てて私を見る。
「は?お前…どうした?」
「昨日仕事で」
フィンクスは「何でギブスも何もしてねえんだよ」と急いだ様子で私の足を自分の足の上から退かし立ち上がった。やばい、怒ったかな?
「医者に見せたのか?」
「ううん」
「連れて来っから待ってろ」
そこらにあった携帯電話をポケットに押し込んだフィンクスがどたどたと玄関に向かう。無くすから、壊すからと言っていつもは何も持たないのに。
どうしよう。まさかこんなに早く行動に移すなんて。流石強化系…なんて言ってる場合じゃない。あーすぐに駄目になっちゃうから踵は潰して履かないでって言ったのに。ってそうじゃなくて!
「フィンクス!」
「何だよじっとして…おい立つな座ってろ!」
「エイプリルフールの嘘です!」
二人の間に沈黙が流れる。
ぽかんと口を開けるフィンクス。彼が飛び出そうとした半開きのドア。そして自分で言ったのに自分で唖然とする私。
数秒時が止まった後先に動いたのは私だった。怒っている訳でも無くやはり口は開いたままのフィンクスに近寄り右手で彼の手首を掴んでみる。視線が私の右腕に移り、フィンクスはやっと開いていた口を閉じてからもう一度口を開いた。
「…エイプリルフール?」
「え…うん」
「そういやお前去年も妊娠しただとか言ってたよな」
「あー…はい」
「その後どうなったか覚えてるか?」
去年の今日、つまり去年のエイプリルフール。妊娠したと嘘をついたは良いものの信じきったフィンクスを止められず、誰かに報告して帰ってきた彼に嘘だと告げると無理矢理に近い形で犯された。
そこまで思い出してから、フィンクスが極悪人のように(事実だが)にやりと笑ったのに気付く。
「いい度胸じゃねえかナマエ」
「やっぱり嘘じゃない」
「何だよやっぱりって。右腕は動いてるだろ」
「折ってくる」
「あー分かった分かった観念しろ」
「分かってない!」
嘘を信じ込む人には嘘はつかないほうがいい。色々な意味で。去年学んでおくべきだった事を両腕を掴まれた今学んだ私だった。
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