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勝敗の裏



「じゃん、けん」

「ぽん!」

「くっそまたかよ!」


微かに口の端を上げたナマエは机の上にあった本を取ってから優優とソファに腰を下ろした。一方先程振り下ろした右手を掴み悔しさに身体を震わせるフィンクスは、少し経ってからがっくりと肩を落とした。

彼らが一体何をしていたかというと、それは数日前に遡る。連日の急な寒さの所為で買い出しに嫌気を刺したナマエが、二人の食材なのだから平等にじゃんけんで決め当番制にすることを申し出たのである。当番制なのにじゃんけんとはどういうことなのかと首を傾げたフィンクスであったが、確率として半々になるであろうと思い承諾した。その結果、残念ながら冒頭の台詞通りフィンクスは一度も勝利していない。


「お前何かインチキしてねえだろうな」

「力入りすぎなんだよ」

「意気込みは関係無いだろ」

「じゃ、絶でじゃんけんすれば」


玄関に向かっていたフィンクスは振り返りながら十分図ってるじゃねえかと再挑戦を挑んだが、ナマエはふいっと本に目線を戻しおまけにテレビを点けた。

彼がよく旅団の役決めのじゃんけんで負けると言っていた理由がナマエには何と無く分かってきていた。別に指摘するつもりはなかったのだが、力が入りすぎてオーラが次動く方に偏っているというのは能力者としてどうなのかと思い声に出してしまったのである。


「帰ってきたらあったかい部屋が待ってるんだし」

「あったかくねえんだよお前がまだ早いとか言ってストーブ点けねえから」

「え…?じゃ全裸で行けば…」


てめぇ…と本から目を離さないナマエに近寄ったフィンクスはその身体をひょいと持ち上げ肩に担いだ。


「じゃんけんの意味無い」

「あーあー聞こえねえなあ」


このあと玄関まで運ばれたナマエは足でフィンクスを蹴りながらもこの冬の買い出しは道連れ制度にすることを渋々認めることになった。しかし変わりに皿洗いにじゃんけん制が敷かれることになるとはじゃんけんに勝てないフィンクスはまだ知らないのである。



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