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只其処に有るもの
ファミレスのステーキが食べたいなんて理由で間昼間からフィンクスに外に連れ出されるのは、稀な事だった。彼も好き好んで人混みに突っ込んでいくタイプでは無いし、昼間は家でだらだらゲームをしたり昼寝をしているような生活だから太陽の光は身体に染みる。丁度良い感じにフィンクスが影を作ってくれているので後ろに続こうとしたが、企みに気付いた彼によって阻止され横並びにされた。不健康なのはお前もだろ、だそうだ。
「仕事、この頃少ないね」
「あ?ああ、まあ全部団長の気まぐれみてえなもんだしな」
付き合い始めてから未だに面白いのが、フィンクスがステーキをちゃんとナイフで切ること。持ち方こそめちゃくちゃだけれど一口大にするのは図体がでかいのに云々。…まあ常識的な一口大より一回りも二回りも大きいしファミレスでステーキ何皿も頼んでる時点で普通じゃないよね。
「でもそろそろでかい仕事来ても良い頃だな」
「なんで?」
「団長が音信不通」
「…」
良いのか…それは。捕まってるとか、死んでるとか、そういう疑念を全く抱かれないという辺り、団長さんは相当信頼されてるんだろうね。
私はそんなことを無意識に口に出していたらしく、食べる手を止めたフィンクスがじっと此方を見ていた。そういえばそうだよね。小さい時からずっと一緒にいたんだから、信頼とかそんなんじゃなくて、何と言うか。…私には表現できないかも。
「いるのが当然って感じだ」
「…あ、あー」
「ん」
「フィンクスが突然いなくなっても生きてると思うのと同じ?」
「は?」
縛らず縛られず、けどいて当然の存在。なんとなく分かった。
未だぽかんとしているフィンクスのステーキを一口横取りするとあっと声をあげて元の彼に戻った。
「解決したんならまあ…いいけどよ…」
「うん」
フィンクスの事だから、いなくなってもある日突然ふらっと帰って来て腹が減っただとか、疲れたとか眠いだとか。そんな普通なこと言うんだろう。ブラックリストハンターに捕まってたりしても返り討ちにしたり、私欲のままに盗みをしたりして。
それでもし死にそうになったりしたなら、その時は帰って来てくれればそれでいい。一番怖いのは気付かずに忘れてしまうことだもの。忘れないでいればあなたはきっと戻って来てくれるでしょ?
口には出さずにフィンクスが食べ終えるのを見ていたら何か気持ち悪いぞ、と笑われた。
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