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癖とも何とも
止まない雨とべたりと血が付くのが鬱陶しい。普段血の出るような殺し方をしないからでもあるだろう。いやそもそもこんなに苛々するのも全部彼奴らの所為だ。何で強化系だからっておちょくられなきゃなんねえのか分からん。失敗もなすり付けやがって。
喧嘩を吹っかけて来た命知らずの雑魚を片付け雨と血を拭ってから、背後…路地の出口のあと一人を振り返って驚いた。
「…ナマエ、声くらい掛けろよ」
「邪魔したら怒るかと思って」
無表情のまま首を傾げたナマエは一度目線を下げてから此方に傘を投げ、雑に俺の頭にタオルを掛けた。視界を遮ったそれを退かしつつ傘を広げ濡れて引っ付いた袖を捲る。無言でそれを見つめていたナマエは片手に財布を持っていた。買い物途中に見つけたって感じか?いやでも傘二本にタオル持ってなんて不自然だよな。
「何で俺が帰ってるって分かった?」
「…仕事と違って喧嘩する時は殺気が出てる。癖なんじゃない?直したほうがいいよ」
まじか、そう言われてみればそうかもしれん。蜘蛛での仕事中より気を抜いている普段はそこまで警戒はしていなかった。
珍しく俺の前をせかせかと歩くナマエに何と無く一歩遅れて着いていく。数分してから何故か、恐らく閉店ぎりぎりのスーパーに到着した。
傘をぐいっと押し付けられ、入口で待っていてと言われたので待っているとナマエは十数分してから漸く出て来た。
「これ、持って」
出てくるなりナマエに手渡された大きな袋。手に下げると歩き辛いだろうから腹の前に抱える。左手に傘、右手に荷物で両手が塞がった俺はとりあえず袋の口を結んでもらい歩き出した。
何も雨が降ってるのにこんな買い込まなくてもいいんじゃないのか。投げ掛けた質問に横で買い出しリストらしい紙を見ていたナマエは浅く溜息をついた。
「なるべく返り血が付かない方法で戦って欲しいな」
は?と、ナマエの言葉の意味が分からず聞き返すと先程より大きく息を吐き、抱えた荷物をふんだくるようにして顎で俺の腹辺りを指した。
ああ、そういうこと。暗いとは言え黒く染み込んだ血が目立っていた。傘を渡す前に何か見てたのはこれか。
微かに寄せられたナマエの眉間を突き荷物を取り上げる。人目を気にする訳では無いが、噂というのは伝わるのが早い。失礼な話で、フィンクスは見た目だけで全うな仕事をしているように見えないから気を付けて、とナマエに言われていた。
「別に、態々荷物作んなくても脱げばいいだけなんじゃねえの」
「無意識というか、無神経というか…」
「どういう事だよ」
「フィンクスは喧嘩した後はいつもより食べるの」
要するに自己分析が足りないって事だ。ああもう良い、無神経で。
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