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数点の白



付き合い始めてすぐ、フィンクスが車を運転出来ると聞いて驚いた。交通ルールとか守らなそうなのに、いや守らないのかななんて思ったけどそもそも免許も持っていなさそうな気がしたので何も言わないでおいた。楽をしようと思わないなら車より走りの方がある意味安全なのかもしれない。


「東200m先だって」

「東?どっちだ」

「さあ」


言い忘れていたけれど、車が運転出来るのとドライブが出来るのは違います。ドライブができないと夜中に良く分からない山道で周りを見回す事になるから覚えておいたほうがいい。
盗難車に文句を言うつもりは無いけどカーナビとか地図くらい置いておいても損は無いと思うんだけど。残念ながら人通りも無いからお手上げ。


「また今度にしようよ」

「あー…家まで帰れんのか?」

「来た道戻れば良いんでしょ」

「覚えてない」


首が重くなり重量に負けてしまった。ハンドルに腕を掛け空腹を訴えるフィンクスは無視して自分だけでも帰ってやろうかという考えは、彼が突然窓を開けた所為でどこかに消えた。


「誰かいた?」

「いや」

「警察来た?」

「だったら殺してる」


なんだ。というか警察が来てくれるならその方がかえって助かるのだけど。もう一度背凭れに寄り掛かってからフィンクスが上を見上げているのと、フロントガラス越しの夜空に気付いた。空気が冷えているからだろうか。真っ黒の空にははっきりと星が浮かび上がっていた。
まさかフィンクスはロマンチストだったりするのかな。

やだ、似合わない。そんな事を考えながら恐らく口元は緩んだまま横目で見て、彼の目を凝らしているのに気付いた。


「…ここは凝らさなくても見えるでしょ」


私が言ってから元の目でちらりと此方を見たフィンクスは顔が見えない様に外を向いてしまった。


流星街に星は無い。
仕事で何度か訪れた事があったけど、あの街の透き通らない空気は月さえも朧にする。それに夜間は人が居なくなって、何も無くて寒かった。微かな光を凝らして見るのは癖なんだろう。彼の中の星というものはきっと私が思っているより暗くて小さい。


「…星なんか見て無えよ」

「目、逸らしてるよ」


窓を閉めて腕を組んだフィンクスはぼすんと音を立てて背凭れに寄り掛かった。
意地っ張り。嘘をつく時の癖は分かるのに、彼のそういうところは分からないままだ。確かに全てが他のどんな人とも違うけれど、そうやって周りと自分を隔離して欲しくないのに。私はフィンクスの過去に干渉できない。当たり前の事なのに役不足みたいで悔しくて、不安になる。


「俺は今が良ければそれで良いんだよ」

「…何?何の脈略も無い一言」

「うるせえ」


驚いて振り向いてしまうとまた外方を向いたフィンクスが腕を組んで足を組んでいた。

きっと過去の事なんて気にしない主義だ、とか言いたいんだろう。
私は会う前の彼の事は知らない。…なら、私の知ってるフィンクスはそれでいっか。その代わり弱味なんて吐いたら叩いちゃおう。


「それで、今は帰れないのが良いの」

「今は眠いから寝る」


単純で意地っ張りで優しくて、だけど何処か単細胞な今の彼の事をもっと知って行けばいいだけ。
溜息を吐いて見上げた夜空にはさっきよりも沢山の星が見えた。


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