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お返し程度しか



外出から戻って来たナマエが行きに持っていなかったものを持っているのに気付き、つい声に出た。マフラーやらコートを脱ぎながら小さな四角いビニールの袋を俺に渡したナマエは薄っすら眉間に皺を寄せ真剣な表情になった。


「幽霊は、信じる?」

「…あん?」


と思ったらいきなり表情とは合わない事を言い出した。
ナマエがふと意味の分からない話をし出すことはよく有るが、真剣な表情で言われるのは初めてだった。それ、と渡された袋を指差されたので開けると一枚のCD…?いやDVDが入っている。念の為取り出してナマエに見せ指差すと首を数回縦に振りもう一度口を開いた。


「私はね、存在しないと証明出来る物以外は信じてる。…例えば有名な、雪男?あれだったら体毛なり幾らかの目撃情報があれば存在は証明できる。なら存在しないという証明はどのようにするのか」

「長えんだよ簡潔に言え」

「ホラー映画借りて来た」


DVD片手にもう今日一日分話し尽くしたかもしれないナマエの話を聞いていたが、更に続きそうだったので強制的に止めた。ナマエが自分で借りてくるなんて珍しい。そもそもレンタルビデオ店で必要な会員登録の住所、それを書いたら不味いんじゃないかってことで借りてなかったんだ。こいつの事だろうから適当に偽装したんだろうが何で態々。
話題の新作とかそういうのなのか?気になり盤を見て漸くそれが自分がナマエに話したからなのだと気付いた。


「これあれか?この前俺が見たいって言ってたやつ」

「うん」

「お前ホラーとかドッキリ系嫌いだろ」

「…うん」


俺の手のそれを取りレコーダーに入れてからもう一度戻って来て突っ立っていた俺を引っ張ってソファーに座る。座ってから暫く様子を見ていると、何故か覚悟したような表情のナマエは膝をソファーの上に上げてクッションを抱え込み再生ボタンを押した。


「無理して見んなって」


テレビを見つめる目は至って真剣だが、手に力が入っているのは一目瞭然。ゆっくり首を横に振り、まだストーリーの導入なのに驚かしを警戒しているらしい。

嬉しいが気なんて使わなくてもいいんだがな。そう思ってから気が付いた。というか気付いていたが考えるに至っていなかったとでも言うのか、そんな事が浮かび上がってきた。

飯の献立も、服の感じも俺の好みを窺ってうっとおしくないくらいに合わせている。もし間違っていたら完全な自惚れだが何と無くそんな気はしない。全部を譲る訳では無いが俺の気付かないくらいの遠慮と気遣いが言われてみれば、それとなく、無くもない。


「…まだまだか」

「?」

「いや。お、そろそろ何か出て来そうだな」


俺が出来るのはからかうっていう気遣いくらいだ。あーあ、一人の女の気を引くのにこんなに必死なんて、何か俺だせぇな。まったく無意識の塊なんて怖い女だぜ。

恐らく笑いの混じってしまったため息をつきながら、テレビからの効果音と共に身構え小さく身体を跳ねさせたナマエを引き寄せた。


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