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何回でも



「おめでとう、フィンクス」


寝起きでぼんやりと、二日酔いで少し歪んだ表情でフィンクスは小さく唸る様に相槌を打った。それを予め想像していたナマエは口元を引き閉め笑いを堪えながら地べたに寝転ぶ彼の横にしゃがんでそれを眺めている。


「何か…あったのか」


様子が可笑しいナマエを見て頭を掻きながら起き上がったフィンクスは、点いているテレビが何時もより賑やかである事に気付き目元を擦った。

何か変だ。直感的にそう感じたのであろう。一向に寝呆けたままの彼は暫く目を凝らす様にしてテレビやら窓の外やらを見た後ああ、と呟いてナマエに視線を戻した。


「俺はあのまま寝たのか」

「うん」


昨夜、つまり大晦日の事だった。世間の祝い事に乗じて何時もより多い量の酒を飲んでいた二人…いや飲んでいたのはフィンクスだけである。特に酒が好きという訳でも無いナマエはだんだん酔っていく彼を見て楽しんでいたのかもしれない。だからこそ別にナマエは初日の出も見ずに酔い潰れていたフィンクスに対して別に文句は無かった。逆に日の出に興味があるのかも分からない彼を付き合わせても返って気を使わせるのではないかと思い、放って置いたのだ。


「二日酔い?」

「あーまあ、ちょっとな」


立ち上がりキッチンに向かったナマエを目で追いながらフィンクスはのっそりと地べたからソファーに移動した。

全く実感のない新年だが、ナマエが料理をしていたからなのだろうか、リビングは何時もより少し暖かい。テレビでは祝いの言葉が飛び交い笑い声と拍手が引っ切り無しに続いていた。
視界の霞みも消え、フィンクスは微かな頭痛と空腹を感じ始めていた。

フィンクスがキッチンにちらちらと視線を向けているのに気付き、ナマエは二つの丼を抱える様にしてテーブルに運んだ。想像とは少し違ったものの登場に、渡された箸を握りながらそれを覗き込んだ彼は隣に座り込んだナマエに視線を向けた。


「うどん」

「いや分かる」


それに単語で答えたナマエは頂きます、とフィンクスより一足先に朝食とも昼食とも言えない食事を始めた。
フィンクスが怯むのも無理は無い。去年の新年もナマエと迎えたが、その時は何というか、豪華さがあった。具材は何時もより多いが思いがけないうどんの登場に驚いていたフィンクスの横からテレビに視線を向けたままのナマエがつぶやく様に言った。


「暴飲した胃が落ち着いたらご馳走食べさせてあげるから」


何時もより優しい声色に、フィンクスは顔を隠す様に丼を持ち上げ麺を啜り始める。勿論彼はそれを見て微笑むナマエには気付かなかった。


「フィンクスは?」

「何が」

「明けまして」

「…おめでとう」


じっと見つめるナマエにフィンクスは小さく返した。
きっとまた一年後、こんな二人が見れる事だろう。


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