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反撃の衝撃
外出から戻ったナマエはフィンクスがソファーから起き上がるのを見て上着を脱ぎながら近付き、口を開いた。
「ソファーさ、こう、L字にする?」
今のソファーはごく普通の横長のものだが、ナマエは毎回帰宅する度に彼が起き上がるのが気になっていた。彼女のイメージはフィンクスが横になった何方かの端に一人座りのソファーを置くというもの。テレビはフィンクスの方が見ているのであるからその方が寛げるのではないか。
だがナマエの提案を聞いていたフィンクスは渋る様に首を傾げついでに腕を組んで唸った。
「要はナマエが膝枕すればいいんじゃね」
「…」
「…」
「えっと…」
「冗談だから真面目に考えんな」
フィンクスの提案を間に受けぴたりと静止したナマエが恐る恐る返答しようとしたが、大変な事になりそうだったので止められる。フィンクスはどうせ自分の事を気遣っての言葉だろうからジョークで流しでもしようかと思っていたのだがまさか真っ正面から受け止められるとは。
上着を掛けるナマエを見ながら思わず小さく笑いを零したフィンクスはソファーの背もたれに腕を乗せ大きく身体を伸ばした。
「お前の冗談通じないのは直んねえな」
「…分かってるなら言わないでよ」
口を尖らせながらキッチンに入って行ったナマエにビールを頼んだフィンクスは、今まで間に受けられた冗談達を思い出して声には出ない笑いが治まらないようだった。
ビール缶とカップを両手にリビングに戻ってもまだ彼がにやけているのを見たナマエは溜息交じりに缶をフィンクスに投げる。
身体は鍛えられても感性を矯正するのは難かしい。だけど毎回フィンクスにジョークで遊ばれ続けるのも何だか癪である。カップに口を付け暫くそんな事を考えたナマエは至って普通の表情のまま、内心ではニヤリと笑いながら言った。
「そんなに言うならしない事もないけど」
思惑通りその言葉はフィンクスに数十分間の沈黙をもたらし、珍しくナマエの冗談に踊らされたと彼が気付くのは缶が空になる頃だった。
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